〜2023年度「ケア実践場面分析演習」で一緒に活動された3名にお話を伺いました〜
ー皆さんがDOORを受講したきっかけを教えてください
竹中:私は広告の仕事をしているのですが、仕事に就いた理由が、「世の中の目線を変えることで社会の課題を解決したい」という想いを持っていたからでした。就活のとき「広告は病気を治すことはできないけれど、その病気を受容する社会をつくることができる」という話を聞いたのがきっかけで、家族の病気のこともあり、この在り方が自分の生き方とリンクしました。一方で、仕事では日々に忙殺されてなかなかやりたいことへ時間をつくることができない葛藤をずっと抱えていた中、書店で『ケアとアートの教室』に出会い、DOORを知りました。
阿部:私の場合、DOOR受講生募集のチラシを会社の上司に教えてもらったことがきっかけでした。そこには「ケア×アート」をテーマにしたプロジェクトと書かれていて「なんだろう?」と興味を持ち、また、もともと憧れていた藝大で勉強したいと思い、DOORを受講しようと決めました。
今井:私は子どものころからアートに関わることが好きでした。また、身近な人の病気等を経て、ケアに関心を持つようにもなりました。でも、何かしたくても、何から始めればよいのかわかりませんでした。
そんなとき、マナパスという社会人向けの講座をまとめたウェブサイトで、ケア×アートを学ぶというコンセプトのDOORを知りました。自分が大好きなアートと、関心があるケアを掛け合わせて学んだら面白そうだな、その先に広がる世界を見てみたいな、と思って受講をすることにしました。
ー実際にDOORを受講してみた感想を教えてください
阿部:普段の日常生活の中では知り得なかった福祉の現場や、さまざまな人たちが「ケア」を求めていること、さまざまな形で活動している人たちの声を聞くことができた貴重な時間でした。
竹中:かなり幅広く、そして深い、沢山のリアルな声を知ることができ、とても学びになりました。毎回の講義が発見の連続でした。自分が知らなかっただけで、世の中にはこんなに沢山の課題があるのかと、毎回の授業後は途方に暮れる思いでした。同時に、これまで私が居た毎日がどこか空疎なものにも見えたし、逆にやりたいことややるべきことも明らかになりました。
今井:私も、多様な背景を持ち、様々な分野の専門家や当事者の方々のリアルな声を聴けたことがよかったと思っています。授業を重ねていくと、最初は難しいと感じていたケアに関することがわかったような気持ちになってくるのですが、講義や演習では、当事者の「痛み」に触れることもあります。そうすると、自分が考えていたことがいかに狭小なのか突き付けられて。その度に何度も自分を変えるようなことを繰り返して、結果的に視野を広げることができ、深みのある学びを得られたのではないかと思います。
ー印象に残っている授業について教えてください
阿部:特に毎週月曜日の夜の「ダイバーシティ実践論」「ケア原論」は、普段は知り得なかった様々な人たちの目線で「ケア」について考える機会になっていました。
今井:私は「ダイバーシティ実践論」では、真下貴久さんの授業が特に印象的でした。真下さんはALSの当事者で、訪問介護事業所の代表をされているのですが、闘病の現実や思いをお聞きし、強く衝撃を受けました。
また、冒険家の春間豪太郎さんの、“(自分自身の)マイノリティと付き合う。なんでもやってやろうと突っ込んでいく”という言葉は、自分へのエールのようにも思えて、時折思い出しています。それから、福祉の現場に赴き、他職種のメンバーと協働した「ケア実践場面分析演習」もとても印象深いです。
竹中:私も「ケア実践場面分析演習」です。やっぱりリアルな現場を見れたことがすごく学びになりました。
ーその「ケア実践場面分析演習」(選択科目)を受講していたこの3人と、もうおひとりのメンバーで、「なんじゃえほんじゃ」チームとして活動をされていました。チーム名に込めた想いがあれば教えてください。
竹中:難しい問題が背景にあったとしても、何か楽しくなっちゃうようなことをしたいね、とチームで沢山話をしていたことがベースの考え方にありました。聞くだけで「なになに??」と気になるような言葉で、楽しい語感で、この活動に愛着が持てる名前になったと思います。
ー「ケア実践場面分析演習」で印象に残っていることや、大変だったことがあれば教えてください
今井:私たちのチームは、(社福)中心会の児童養護施設・相模原南児童ホームさんで実習を行いました。(社福)中心会の児童養護施設・相模原南児童ホームさんにおいて実習「地域に児童養護施設を知ってもらうこと」を目的に、夏から冬にかけて相模原南児童ホームさんに実習に伺い、子どもたちが生活しているユニットや屋外で遊んだり、水彩絵の具で絵を描くワークショップなどを行いました。(ケア実践場面分析演習 作品【「オテテのゆめのぼうけん」supported by なんじゃえほんじゃ】)
竹中:実習期間中はずっと楽しかったです。
阿部:秋に行ったワークショップでは、子どもたちに「このゆびとまれ」、「もしも魔法が使えたら」という2つのテーマで絵を描いてもらいました。
今井:実際にワークショップを行う前は、このとき子どもたちが描いた絵にストーリーをつけ、最終的に1冊の絵本としてまとめようという計画だったのですが、そこで思いがけない困難(?)が。
竹中:思っていた以上に子どもたちが想像力にあふれていたことです(笑)。
阿部:子どもたちの描いた絵はどれも想像力豊かで、絵の具でのびのびと表現されていました。素敵な絵がたくさん出来上がり、この絵たちをどう絵本にまとめるのか、途方に暮れそうな気分でもありました。
今井:子どもたちの創造力たるや、本当にすごかったですね。完成した絵の前で、メンバー全員が少し黙りこくったのを覚えています(笑)。
竹中:でも、そのおかげで、絵本の物語は自分たちの想像を超えたところに行き着きました。
阿部:ワークショップを行った後に、メンバー4人で子どもたちの絵を全て広げて、一枚ずつ子どもたちから聞いた話を共有する時間はとても楽しく、印象に残っています。子どもたちが描いている時にどんな表情だったか、どんな話をしていたのかお互いに共有し合い、作品を鑑賞した時間は、これからどんな楽しい絵本が出来上がるのか高揚していました。
竹中:可愛い子どもたちとおしゃべりをしたり、想像をはるかに超える子どもたちの絵に圧倒されたり、実習は発見の連続でした。
完成した絵本『オテテのゆめのぼうけん』
ー受講してみてご自身の心境の変化などがあれば教えてください
阿部:児童養護施設や、里親制度のことなどをDOORで深く知ったことで、自分の地域や周りではどんな取り組みをしているのか、知るきっかけになりました。
今井:境遇の異なる他者を理解してもらうことに関する考え方に変化がありました。実習で子どもたちと関わり、「児童養護施設を地域に知ってもらうこと」という課題に向き合った結果、最初に違いをフォーカスして見られてしまうと、そこで無関係だとシャットアウトしてしまってなかなか理解まで辿り着かないこともあるな、と思い至りました。まずは同じところを見つけてもらい、相手も自分と同じなんだなと知ってもらうことで、ぐっと心理的な距離が近くなり理解が進むようになるんじゃないかなと思うようになりました。そういう共感を呼び覚ますような理解促進の仕掛けをしていきたいと思っています。
竹中:仕事上で企画するときの考え方の幅が広がりました。広告の仕事はどうしても「大衆」など沢山の人のことを考えがちな仕事ではあるのですが、私だけが持てる眼差しを持っていたい、と思うようになりました。そう思うと日常生活の中のインプットがいつもと違うところまで見え始めて、何かできることをしたい、という思いが強くなりました。
ー修了後の活動や展望があれば教えてください
阿部:会社の人たちにDOORでの活動の話を共有したところ、会社でも子ども向けワークショップをやってみよう!という声があり、8月の夏休みシーズンに「架空のいきものをつくろう」というテーマでワークショップを行いました。
幼児から小学4、5年生の子どもたちに集まってもらい、流木やどんぐり、松ぼっくり、布、和紙、絵の具…さまざまな材料を使って自由に作ってもらいました。
最後にそれぞれが考えた架空のいきものの生態や工夫したところを発表してもらい、鑑賞の時間を設けました。子どもたちの面白い発想から生まれる「新しいいきもの」を作っていく過程では、素材と素材を試行錯誤してくっつけてみたり、思いもよらず面白い表現が見つかったり、皆がそれぞれ考え楽しみながら制作していました。
竹中:私は、DOORでの繋がりの活動は細々とになってしまっていますが、続けていきたいと思っています。
ケア実践の授業で子どものケアに興味が湧き、仕事でも相対的貧困過程の教育支援に取り組む団体のCMを作るなど、活動の幅が広がりました。
ここで学んだ視点を入口に、いろいろな制作活動に繋げていきたいです。
今井:私は仕事と両立させながらなんじゃえほんじゃを中心に活動を続けています。夏には修了生有志の展覧会(あそびとこころのみかた展)に参加し、子どもたちの原画や絵本を展示しました。ちなみに、阿部さんにはそこでもものづくりや描画のワークショップを行ってもらいました。
また、なんじゃえほんじゃの活動をきっかけに知り合いの輪が広がり、子ども虐待防止の催しや、DOOR同期の実習先である小山ホームさんでのボランティアに誘われるようにもなりました。こうしたことにも、できる限り関われたらと思っています。
もちろん、活動の幅を広げつつ、実習でお世話になった中心会さんとのご縁は、これからも大切にしたいと思っています。この夏にはなんじゃえほんじゃの元のメンバーに、新しくDOORの同期2名を迎え、相模原南児童ホームさんでボランティアを行い、子どもたちと楽しい時間を過ごしました。長く続けられる工夫をしながら、引き続き関わらせていただければと思います。
DOOR7期修了生が開催した「あそびとこころのみかた展」での絵本の読み聞かせの様子
なんじゃえほんじゃのInstagramアカウント:@nanja_ehonja
ー最後に、DOORの魅力を一言でいうと?
竹中:リアルな現場を知っていることだけでなく、それぞれのケアの領域に対して前向きなエネルギーを持った方に沢山出会える!
今井:多様な背景や価値観を持つ人たちとの学びや協働で、大きな力を生み出せる!
阿部:視野が広がる!
2024年11月