INTERVIEW

新しい扉をあける勇気がもてました

DOOR4期生
永田一恵(ながた かずえ)さん

ーDOORを受講したきっかけを教えてください

きっかけは2つあります。
1つ目は、職場の同僚(DOOR3期)から「DOORと出会ってワクワクが止まらないよ」と聞いたことです。当事者の講師の方から現場の生の声を聴けるとのことで「これはぜひ受講したい!」と思いました。
職場の上司や周りの方にも「ぜひ行くべき、応援します」と声をかけていただきました。

2つ目は、「ヨコハマトリエンナーレ2011」の連携プログラムで、日比野克彦先生の「空の芸術祭」に参加してアートの魅力に触れたことです。
会場に選ばれたのは、横浜市の中でも少子高齢化率の高い旭区の若葉台団地と、廃校になった中学校でした。
日比野先生やアーティストの方から「ここは、ブータン王国と同じように森に囲まれ自然も多く、空が青くて広い。そんな空をみんなで繋げよう!」と呼びかけがあり「空の芸術祭」が始まりました。ブータンでは山に旗を飾る風習があることにならい、地域の子どもや大人が描いた旗を団地に飾ったり、ピンクに染めたシーツを団地のベランダから干して「これもアートだね」と楽しみました。
今でも忘れられないのは70代男性の言葉です。「最初、アートと聞いた時は苦手だなって。でも、この団地の空は、幸せの国ブータンと同じと言われて驚いた。団地から見上げる空が魅力的だと言ってくれた。イベント当日は、日比野先生が観光大使を務めるブータン王国から首相まで来てくれて。“自分たちの何気ない日常を面白がってくれた。アートが、まちの魅力を伝えてくれたな”と感じた。」と言ってくださいました。

この芸術祭での体験からアートを通じて自分のまちの良さを再確認する、そんなまちづくりができたら楽しいかもしれない…と考えるようになったんです。
2020年、福祉と芸術を掲げるDOORで、やりたかったことが学べることにワクワクしました。

 

-実際にDOORを受講してみていかがでしたか?

想像以上に贅沢な時間でした。
どの授業も印象的でしたが、プログラム実践演習でアーティストの許允(ホユン)先生の心の傷を打ち明ける授業「浮遊する傷 2020」が心に残っています。授業では、自分が過去に感じた傷を打ち明けていくのですが、許允先生が最初から話しやすい雰囲気を作ってくださり、オンラインでも皆が皆の気持ちに寄り添う不思議な空間でした。

自分のことを相手にさらけ出すって、意外とハードルが高いですよね。例えば、ケアマネジャー等の専門職が、高齢者に「困ったことはありますか?」と聞いても、「特にありません、いつも皆さんには良くしていただいて…」とおっしゃいます。でも、全く別の人から「やってみたいことは何ですか?」と聞かれると「本当は、友人に自分で選んだお菓子を渡したい。でも、歩けない私が外出すると色々な人に迷惑をかけるから…」とポロっと本音が出ることがあると聞きました。
福祉って、相手にやってもらうだけでは本人もしんどい。だから、迷惑をかけまいとします。でも、実はこんなことがしたい、あれは嫌だったと内に秘めた思いを打ち明けるのは大切です。
許允先生の授業では、初めて会った人同士でも、ポロっと本音を言いたくなる場づくりの大切さを学びました。

TURN on the EARTH  わたしは ちきゅうのこだま展「浮遊する傷 2020」許允 Photo:加藤甫

 

ー授業を受けて変化はありましたか?

そうですね、思い返すと、たくさんの影響を受けています。
DOORでは、毎週のダイバーシティ実践論で、多くの当事者やそれを支える方々のお話を聴けます。受刑者を取材した映画監督の方や、性的マイノリティの方からお話を伺った事で、実際の仕事でもあの方ならこんな時どう思うだろうと具体的に考えるようになりました。
他にも、15秒のデジタルサイネージ動画を作成するときに多様な人が登場するよう意識する等、些細なことですが以前よりDiversityを考えるようになりました。

 

ー変化の輪が広がっていますね

DOORの同期や授業で出会った方から、大きく影響を受けています。
後期のケア実践場面分析演習では、様々な事情で家族と離れて暮らすこどもを家庭で預かる「ファミリーホーム」に行かせてもらいました。「子どもが自分をとりまく環境を理解するには時間とタイミングが重要で、大切なことは点滴のように少しずつ伝えている」というファミリーホームのお母さんの言葉が印象的でした。
この経験から、多様な家族がいることを広く多くの方に知ってもらいたいと考え、授業の成果物としてチームで「演劇ワークショップ」や「みんなの家族カルタ」を作りました。その体験会で、同期が「『里親になるってどう思う?』と夫に聞いたんだ…」と教えてくれました。そうやって自分事として考え話せる同期に出会えたことが幸せです。

ケア実践場面分析演習の成果物として制作したみんなの家族カルタ。リンクよりダウンロードが可能。

 

-修了後の活動についても聞かせてください

修了後も、緩やかにつながっています。
4期のコミュニティURaKIDo(裏木戸)では、お薦めのイベント情報を交換したり、授業で余った粘土で陶芸作品を作るあまり粘土クラブや、80代の同期から健康の秘訣である美人ストレッチを習ったりと実に様々な活動をしています。

2021年の秋には、医療的ケアが必要なお子さんやご家族とDOOR4期で、障害がある子もない子も一緒に遊べる「インクルーシブ遊具」を体験しに藤沢市の秋葉台公園に行きました。(動画あり)いつも車椅子に乗っているお子さんは、ブランコやシーソーに乗るのも初めて。ふわっと自分の体が浮いたり、揺れたりする感覚に、みんな大はしゃぎでした。
この「こどもハッシン!プロジェクト」も、DOOR4期で医療的ケア児の訪問看護事業の代表理事である中畝さんが「こどもたちと一緒に面白いことをやって、その活動をハッシンしませんか」と誘ってくださったのがきっかけです。自分一人では出来なくても、色々なことを共に学んだ同期と一緒なので、新しい扉をあける勇気がもてました。

 

-修了してからのほうが活発につながりが生まれていますね

4期生は、コロナの影響で授業はオンラインがメインで、修了式で初めて会った方もいます。「やっと会えたね!ここで終わってはもったいない」という気持ちから、修了後も緩やかに繋がっています。月1回のZOOMランチでは、自由テーマで同期からじっくり話を聞く機会もあります。
画面越しの相手とリアルで会えると、良い意味でギャップもあり、更に相手を知りたくなり面白いです。
始まりがオンラインだからこそ、会えたときの喜びもひとしおです。

2021年11月
聞き手:高橋美苗(DOORスタッフ)
撮影:北沢美樹(DOORスタッフ)