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2021
8/21

人間形成学総論③

講師: 渡邊祐子(東京藝術大学 非常勤講師)
3回目の講義のテーマは「学「力」とはなにか」です。私たちは教育を通してどのような力を育んでいるのか、またその獲得された力は「自分らしく生きること」とどう関係しているのかについて講義が進められました。「学力」という概念から、教育を通じて養われる「力」についても理解を深めました。

「わからないことがわかる」というのは一つの「認知」能力であり、認知においては、その人が持っている「知的機能の使い方」が問題になります。90年代以降、知的機能をどう使っていくかは、自分を俯瞰しながら物事を認識していく「メタ認知」という概念で理解されるようになってきました。初回講義でも自分について理解することの難しさについてのお話しがありましたが、この力が自分の中にある知的資源を運用するときに非常に大きな役割を果たしていくことがわかっていると言います。「自分を俯瞰できる能力」は意欲を思考に結びつけるために必要な力です。この力は人間が生きる上で非常に重要な力だと渡邊先生は強調されました。

授業後半では、教育での実践事例について講義が行われました。モノを見たり観察し、視覚的な情報と言葉を重ねてものごとを理解していくところに博物館教育の最大の特性があり、このような理解がなされ実践しているのが東京都美術館と東京藝術大学が行っている「Museum Start あいうえの」です。渡邉先生は、この体験的な視覚作用は、多様な背景を持つ人々が互いを知り、自分を知るための学びに効果を発揮するのではないかと問いかけます。

「Museum Start あいうえの」で実際に企画したプログラム事例として、身の回りの自然物を拾い集めて観察し、それを木箱の中に並べて小さなミュージアムを作り誰かとまなざしを共有する「キュッパ部」、美術館に展示されている野外彫刻作品を見て自分が感じた感覚を体全体で表現する「美術館でポーズ」というプログラムが紹介されました。このプログラムではものを見て、思考し、感じた感覚を形容するような言葉(世界)に出会うという一連の活動を通して、自分の感覚を豊かにすることを試みています。

他者と同じものを見て、自分の知覚や感情を分かち合うことでこれまで気づかなかった知覚や感覚のあり方を分かち合い、細分化していく。そこには語られた言葉があらわす意味や、そこに込められた気持ちの重さを感じられる心と、他者への共感と尊重がなければならない。そのような態度や価値観を自分のものにしていくことを目指すのが教育の現場であり、そのような場の一つが多様な価値を公設しているミュージアムなのではないか、と講義を締めくくられました。

講師プロフィール

東京藝術大学 非常勤講師

渡邊祐子

東北大学大学院教育学研究科博士課程修了後、都内の大学で教育学の教鞭をとる。専門は生涯学習、美術館教育。
21年までは、東京都美術館委託専門家としてMuseum Start あいうえのプログラム・オフィサーを務める。