
① 藝大での活動や作品、研究テーマなど教えてください。
現代において一見すると何の変哲もなさそうな言葉や物事を起点に、その由来や歴史、背景に潜む文化的文脈を掘り下げる制作を行っています。調査の過程で見出した複数の事象や意味の断片を再度編み直し、新たな関係性や解釈を提示することを試みています。また、自身にしか感知できない曖昧な「感覚」を、いかに他者と共有可能な形へと変換できるかをテーマに、様々な表現方法を探っています。
近作では参加型の作品を通して、鑑賞者の身体を介入させることで、日常的に目にしている物事の裏側に隠れた歴史やルーツを伝えることを目指しています。具体的には、ブランコや足つぼロードなどの公園によく見られる遊具の歴史や成り立ちを調査し、その背景を作品の中で展開させました。また、設備点検時にのみ機能していた大学の建物内の空間を身体の循環から外れた「凝り」に見立て、床の再構築と導線の設計によって人の自然な動きを誘導し、建物全体の循環へと再接続する試みも行いました。

作品名『Spirit Farming』2024

作品名『Spirit Farming』2024

作品名『人流促進』2025
②授業や演習の中で印象に残っている場面はありますか?
受講のきっかけは、入学時に配布された共通科目の案内の中に「DOOR」の項目があり、その中でもアートプロジェクトについて学べる「プログラム実践演習」という授業に興味を持ったことでした。制作を通して社会や他者と関わることができる授業内容に惹かれ、DOORの受講を始めました。
演習の中で特に印象に残ったのは、グループで社会人の方々と協働し、ひとつの作品を完成させた経験です。立場や専門の異なるメンバーと意見を交わしながら制作を進める過程は、これまでの個人制作とは異なる視点を得る機会となりました。さらに、完成した作品は学内の展示で終わるのではなく、色々なご縁のおかげで校外でも展開させることができました。自分の作品が社会と接続していく手応えをそこで実感することができました。
また、受講した翌年には、同じグループで関わった社会人の方に誘っていただき、越後妻有の大地の芸術祭を訪れる機会がありました。授業終了後も関係性が続き、学びが学外へと広がっていく経験ができたことを、とても嬉しく感じています。

プログラム実践演習で制作した作品を郊外で展示した時の様子 /作品名『編んで繋がる』2024
③社会人と一緒に学んでみていかがでしたか?
社会人の方々と一緒に学んで最も強く感じたのは、グループワークの進め方において多くの学びがあったことです。社会人の方々は働く経験を通して、物事を効率的かつ現実的に進める力を身につけています。そのため、役割分担や話し合いの整理の仕方など、美術畑に長く身を置いてきた自分とは少し異なる制作の進め方をしていました。そうした姿勢に触れることで、自分の制作方法を見直すきっかけとなり、そこで得た学びは、後に同期の学生とグループで制作を行う際にも活かされていると感じています。
また、DOORを受講している社会人の方々はバックグラウンドがさまざまで、それぞれが異なる理由や関心を持って授業に参加している点も面白かったです。美術分野に直接関わってこなかった人が、芸術やケアに興味を持つきっかけを知ることは新鮮であり、他者が作品をどのような視点で受け取るのかを考える手がかりにもなりました。多様な価値観に触れながら学んだ経験は、自分の作品制作の時にも役に立っています。
④DOORの授業を受けて、ご自身の活動への影響などがあれば教えてください。
DOORの授業を受講したことで、自身の活動に対する視野が大きく広がったと感じています。受講前は福祉についてほとんど知識がない状態でしたが、授業や演習を通して、福祉やケアの現場においてアートが具体的に機能し、人や場に作用していく可能性があることに気づかされました。芸術と福祉が結びつくこと自体が自分にとって新鮮な学びであり、作品の役割や意味を捉え直すきっかけとなりました。
所属している学科での作品制作とは別に、もうひとつのコミュニティで継続的に制作できる場を持てたことも、自分にとっての大きな精神安定剤のようなものでした。評価や完成度だけを意識するのではなく、誰かのために作品をつくり、その作品によって誰かが喜んでくれるという経験は、これまでにない制作の手応えをもたらしてくれました。さらに、制作の過程でそれまで関わることのなかった人々と出会い、協働する経験を積めたことは、制作への向き合い方を支える大切な要素になったと思います。
DOORの授業や演習で、ケア×アートについて学ぶ過程で、自分自身も癒されていく感覚があり、本当に受講してよかったと思います。DOORでの全ての出会いに感謝したいと思っています。


