
①藝大での活動や作品、研究テーマなど教えてください。
私の日本画制作の研究テーマは、薄暗い空間や生活の中のモチーフから感じる空気感を、原寸大で表現することです。空気感を原寸大で表現するとは、モチーフを見ているときやモチーフのある空間にいるときに感じる落ち着くような心地よさなどを、絵画を見ることで第三者に伝えるということです。こうした曖昧な感情を表現するために、半抽象的な絵を制作しています。
日本画専攻では主に和紙や岩絵具、膠などといった、昔から絵画制作に使われてきた画材を用いて絵を描いています。私も空気感や感情などの曖昧なものを主題とするのに、適していると感じこのような日本画材を使っています。金属鉱物から作られる絵具は、加熱すると酸化し深い色合いへと変色します。また和紙と膠を選んだり加工したりすることで滲みの度合いが変わり、描いた物の輪郭の出方が変わったりします。こういった自然物だから出せる有機的な色合いや形を好ましく思い、日本画材による制作をしています。

作品名 『洗面台』 2025

作品名『郵便ポスト』2025
②授業や演習の中で印象に残っている場面はありますか?
DOORを受講したきっかけは、芸術の幅の広さを知りたいと思ったからです。入学当時は、せっかく藝大に入学したのだから日本画制作以外で学べることも学びたいと考え受講を決意しました。
DOORをはじめて知ったのは入学前の教務課によるオリエンテーションのときでした。そのとき当時学部長だった日比野克彦先生からお言葉をいただく機会があり、同時にDOORプロジェクトを紹介されていました。4年間淡々と日本画を描くだけで卒業後どう社会と関われるのだろうという不安もあったため、芸術による社会貢献という点に惹かれたことを覚えています。
最も印象に残っている授業は、児童養護施設に訪問し成果物を作る授業です。コロナ禍ではありましたが無事千葉県の児童養護施設に訪問することができました。身構えて望んだ訪問でしたが、事前に思っていた児童養護施設のイメージと違い、元気で明るい子どもたちと職員さんがあたたかく迎え入れてくださったことをよく覚えています。特殊な環境であるがゆえに一般家庭より制限があるところもありますが、職員さんがそれを補うようにあたたかい教育や特別な経験ができるように努めているのが印象的でした。そういった環境を見ることができたこと、児童養護施設での課題を社会人受講生と考えることができたことは大変貴重な経験でした。

訪問した児童養護施設でワークショップを行い、できた作品を浅草橋の+BASEで展示した
③社会人と一緒に学んでみていかがでしたか?
社会人受講生と学べたことは、自分の無力感を感じながらも大変良い経験でした。グループで成果物を作るときのzoomミーティングでは、社会人の皆さんとの議論についていくことができず一言も話すことなく終了してしまったこともよくありました。私にとって見慣れない社会課題について考えることや社会人の前で自信を持って意見を言うことは難しく悩んでいたこともありました。しかし最後まで授業やミーティングに参加したことはとてもためになったと感じています。
また社会人受講生の方たちはそれぞれの専門分野を持っている方ばかりです。専門分野が違う人たちが集まるからこそひとつの物事に対していろいろな視点で見ることができました。ダイバーシティ実践論では講師の方の授業が終わると最後に質疑応答の時間があります。専門性のある社会人受講生たちと講師とのやり取りは私にとっては新鮮で、毎授業衝撃的だったことを覚えています。
④DOORの授業を受けて、ご自身の活動への影響などがあれば教えてください。
DOORの授業では現地に行くということを大切にしているように感じました。様々なプログラムがある中で、ほとんどが題材とする場所に足を運んでいるように感じます。まず、現地に行き肌で感じるという取り組みかたは、自分の専攻している日本画でも共通していると思います。私も日本画制作においてモチーフとなる物や場所を見て、自分がどのように感じるかを大切にしています。DOORの授業を受講したりティーチングアシスタントとしてサポートさせていただいたりするたびに、現地にいくこと、現地で味わうことの大切さを再確認しています。
制作面以外でも少し視野を広げて物事を考えられるようになったと感じています。障がいや社会課題などで生きづらさを感じている方々の声を聞けたことで、どのような課題があるのか、何に生きづらさを感じているかを知ることができました。聞けば聞くほどその人なりの個性や価値観が見えてきて、障がいと一括りにしてはいけないように感じました。DOORの授業を通して、様々な人と関わっていく上で大切な視点を身につけることができたように思います。

取手校地で和紙原料植物の楮を育てている様子

