森晴華さん(藝大生)
(東京藝大先端芸術表現科学生/2023年度受講/東京都在住)
DOORの授業を履修して いろんな社会人の方々に出会えてよかった

①DOORプロジェクトへ参加した(知った)きっかけ

私は先端芸術表現科に入学する前から、当時学科の教授であった日比野克彦先生の授業を受けることを楽しみにしていました。しかし日比野先生は2022年に東京藝術大学の学長になったため、入学後に日比野先生の授業を受けることができなくなることをとても残念に思っていました。そんなときに、履修登録の冊子に掲載されたDOORプロジェクトの存在に気づきました。

私はそれまで福祉とは無縁だったため、DOORプロジェクトの「アート×福祉」というテーマを見た瞬間から惹きつけられました。アートと福祉は一見、遠く離れたような存在で、そこがどう組み合わさるのだろうと不思議になりながら、DOORの授業を詳しく調べていきました。すると福祉関係の授業だけでなく、アートプロジェクトについての授業や社会人と共に作品を作れる授業もたくさんあることを知りました。私はそれまで一人で作品を作ることが多く、アートプロジェクトにはとても興味を持っていて、さらに誰かと共に作品を作ることに憧れていたので、それらのことができる、尚且つ日比野先生がゲストで登壇される授業が受けられるDOORプロジェクトに参加しようと思いました。
 
②印象に残っている講義や実習

私はDOORの授業を全て履修していたわけではなく、自分の学科の必修科目との兼ね合いを考えつつ、興味関心が強かった授業を選択して履修しました。DOORの授業はどれも面白いものばかりでしたが、中でも特に印象に残った授業はプログラム実践演習です。

プログラム実践演習は公益財団法人日本サッカー協会と協力しあって、感覚過敏の子供とその家族が観戦するための部屋、センサリールームの実施に向けた授業です。プログラム実践演習は長期間にわたって一つのプロジェクトを完成させる授業で、最初センサリーが何なのかもわからなかった私でも授業が進むにつれ、夢中になって取り組むことができました。私は元々センサリールームは一部の人にしか必要とされないものだと思っていました。しかし「一日一センサリー」という自分が安心できる場所を一日に一個探す課題を授業で出されたとき、初めて自分にも安心できる場所とそうでない場所が明確に分かれていることに気づきました。その気づきによって、実際に感覚過敏の子供の立場になって物事を考えられるようになり、センサリールームに必要なものを制作するときのアイデアにも繋がりました。私はこの授業を通して、アートと福祉の関係性についてたくさん考えさせられました。アートはただ単に楽しむものだけでなく、誰かを助けるための道具にもなれることに気づき、自分にとって大きな収穫でした。

 

③「社会人と一緒に学んでの感想」

プログラム実践演習で、私は四人の社会人の方々と協力して「つながるひも つなげるひも」という作品を制作しました。この作品は通常一人で組む「組紐」を大人数で作れる装置を作り、それを用いてみんなでリズムにのってひもを受け渡しながら、巨大な組紐を作るという参加型の作品です。この作品は、グループの誰一人として欠けていたら完成できなかった作品です。最初の構想を立てる段階から、全員で話し合いを重ねて、それぞれがやりたいことを擦り合わせ、さまざまなマケットを作り、そこから一つの案に絞って制作を進めました。授業外でも連絡を取り合い、各自が得意とする分野の作業を担当して制作し、現地授業の時に進捗を共有して、最終的に作品を完成形まで持っていきました。

社会人の方々と一緒に作品を作ると、同級生や芸大生とのグループワークでは聞けないような意見や考え方を聞けたり、アートを作っていない人の視点が知れたり、意見交換できたりして、非常に貴重な体験でした。そして授業外でも自分の作品に興味を持ってもらえて、展示にもお越ししていただけて、本当にDOORの授業を履修していろんな社会人の方々に出会えてよかったと思っています。

(2023年12月 トークセッション収録より)