秦野 君子さん(8期生)
2024年度受講/埼玉県在住
長い人生経験を活かしつつ、時間をかけて新しい出会いと向き合える

①DOORを受講しようと思った理由

私は今年3月末に地元の市役所をリタイアし、現在はDOORの学びによって充実した日々を過ごしています。
 
そんな私ですが、就業中は加齢による心身の衰えや老後の漠然とした不安などから、高齢期の入り口に立ったひと特有の鬱を経験しました。いつもモヤモヤした状態で暮らしていたのですが、偶然DOORを知り、著書「ケアとアートの教室」に共感して受講を決めたのです。ネガティブな壁に直面している自分を、新しい学びや人との出会いによって何とかして変えたい。生きづらさを感じていた当時の私は、心のどこかで自分自身がケアされたいと願ったのかも知れません。
 
また私は美大で学んだ経験があり、アートによって社会貢献することが永遠のテーマでした。ケアとアートを結び付けて“よりよく生きる”方法を模索し、多様性を認め合う社会の実現を目指すDOORの学びは、私にとってかけがえのない体験となりました。

 

②印象に残っている講義や実習 

最も印象に残っているのは、選択科目の「ケア実践場面分析演習」で上野桜木にある自立訓練事業所と関わりがもてたことです。
 
実践として、通所者とともにストレッチ・銭湯のタイル磨き・ビブリオを体験させていただいたり、絵巻物を協働制作したりしました。絵巻物は短冊や写真の切り抜きをコラージュしたもの、フロッタージュした紙を張り付けたものと2種類制作して、事業所内外の人びととの交流を図る試みです。私自身とても楽しめる作業でした。コミュニケーションが難しい方が多いと聞いていたのですが、絵巻物の世界では多くの物語を饒舌に表現されており、ことばや表情でのコミュニケーション手段がマジョリティとなる社会自体に“障がい”があると気づかされました。
 
また藝大訪問の実践では普段立ち入ることができない研究室や木工室、さらに藝大の象徴である大石膏室の見学を渡邊五大先生の解説で案内していただき、大学という壁を越えて新たな交流に踏み出すことができました。
 
自立訓練事業所を実際に訪れて共に時間を過ごさせていただいたことは、ケアとアートを結び付ける可能性が実感できる貴重な学びとなりました。

 

③仕事/生活/学業とDOORプロジェクトの両立について

DOORが修了するまでの1年間は学業を優先すると決めていましたので、生活との両立は家族の協力もあり困難ではありませんでした。
 
ただ年齢的に不具合が多く、何事にも時間がかかるのは当然です。それでもオンライン講義はほぼ全て受講し、復習の意味を兼ねてアンケート(感想シート)を必ず提出しました。その下準備として参考文献を読んだり資料館を訪問したりと執筆には何日もかかりましたが、自分の考えを素直に文章表現できる作業はとてもやりがいを感じるものでした。
 
また時間的余裕があるという特権を活かして上野桜木の自立訓練事業所(ケア実践場面分析演習での協力先)に進んで足を運び、近隣で開催中の展覧会を楽しむこともできました。その他の授業も積極的に出席することで、次第に以前とは違う自分を創造していったのです。
 
長い人生経験を活かしつつ、時間をかけて新しい出会いと向き合える。リタイア後の私は、学ぶ環境に最も恵まれた受講生の一人だったのかも知れません。