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2019
11/11

ケア原論8「超高齢社会に求められる新しい医療のカタチ」

講師: 佐々木 淳(医療法人社団悠翔会理事長・診療部長)
佐々木淳さんは、24時間対応の在宅医療に携わる医師です。看護師、栄養士、理学療法士などがチームを組んで、通院が難しいけれども継続的な医療が必要とする人たち、主に難病や障害を抱えた人、人生の最終段階を迎えた高齢者を支えています。

在宅医療は、治療だけではなく、その人が暮らしている環境を整えることを重要視します。例えば転倒骨折の場合、元気な世代なら整形外科を受診し、治れば元の生活に戻れますが、高齢者の骨折の原因は、運動ではなく、認知症や低栄養による骨の脆さである場合が多いため、住環境や介護体制の改善が必要です。また入院も高齢者にはリスクと考え、在宅で治療ができないか、入院でその人の暮らしが改善するのかを慎重に検討します。病院での安静期間が長いと、病気は治っても身体機能、認知機能が低下し、寝たきりになる人もいるからです。このように、在宅医療は、病気の完治そのものを目指すというよりも、その人の病気と生活全体をケアの対象として、最期まで自宅で暮らし、納得できる人生を送れるように支援をします。

納得できる人生、とは何でしょうか。佐々木さんは、生活や人生を自分で選択できることだと言います。あるALS(筋萎縮性側索硬化症)の男性が紹介されました。ALSは治療法がなく、自分の意思で体を動かすことができなくなる難病です。しかし彼は人生を諦めませんでした。妻と共に24時間介護を提供する会社を起業、人を雇い、社会に貢献しています。食べることが好きなので、胃瘻は付けず、気管の入口を塞ぐ手術を受けることを選びました。お酒を飲み、家族と同じ食事を食べています。身体機能は失っても、人生は健やかに。自分の意志で医療を選び、生活環境を整えることで、楽しく充実した人生を送ることは可能なのです。

年齢を重ねれば、誰でも身体機能は衰え、最期を迎えます。いつ医療を諦めるか、本人もその家族にとっても、判断は簡単ではありません。納得のできる最期を迎えるために大切なこととして佐々木さんが挙げたのは「治らないという現実を受け入れる」でした。現実を受容して初めて、私たちは医療からの支配、医療への依存から解放され、自分が本当にやりたいことに想いを向けられるのかもしれません。家族と旅行に行きたい、友達に会いたい、うなぎが食べたい。人生の優先順位は十人十色です。それが仮にドクターストップになる行動だとしても、本人が納得した上で選択したことであれば、安全に配慮しながら実現を応援する。在宅医療は、これまでの治療最優先の医療では疎かになりがちだった役割を担っていくと感じました。

講師プロフィール

医療法人社団悠翔会理事長・診療部長

佐々木 淳

1998年筑波大学医学専門学群卒業後、社会福祉法人三井記念病院内科、消化器内科にて勤務。東京大学医学部附属病院消化器内科、医療法人社団哲仁会井口病院副院長、医療法人社団玲瓏会金町中央病院透析センター長等を経て、2006年MRCビルクリニック(在宅療養支援診療所)設立、理事長。2008年 医療法人社団悠翔会に改称。首都圏を中心に全12クリニックで、24時間対応の在宅総合診療を展開している。

■編著に『これからの医療と介護のカタチ 超高齢社会を明るい未来にする10の提言』(日本医療企画、2016)、『在宅医療 多職種連携ハンドブック』(法研、2016)、『在宅医療カレッジ 地域共生社会を支える多職種の学び21講』(医学書院、2018)等多数。