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  • ダイバーシティ実践論
2017
11/20

アーティストの活動・文化事業から考える4「芸術 ー 新たな可能性の領域を生み出す技術」

講師: 藤井 光(美術家、映像作家)
冒頭に紹介されたスライドは、石膏やイーゼルが並ぶ100年前の東京藝大を描いた絵。美術教育を象徴する「石膏デッサン」に感じた違和から始まる、藤井さん自身の学生時代から近作までを題材に、芸術と福祉が徐々に近づいていく軌跡やその中での気づきをお話し頂きました。

パリで美大に進学、帰国して後、宮下公園に住む若いホームレスが自分を撮影した映像をインターネット公開する作品を発表。社会に告発するのでなく、撮影者が自らの置かれた状況を知るための技術として映像を扱ったと説明します。
福島第一原子力発電所に一番近い映画館のドキュメンタリー「ASAHIZA」は、地元の人が、インタビューで街の記憶を集めるなど制作に関わる状況を作って撮影されました。朝日座は日本各地の地方が抱える共通の課題を浮かび上がらせ、福島・南相馬の記憶を集団の記憶へと転換していきます。
東京都現代美術館でカラの展示室を提示した「爆撃の記憶」は、1990年代の「東京都平和祈念館」構想を題材にしたインスタレーション。構想は、日本の加害の歴史認識を理由に議会で否決、凍結となったが、多数の証言映像など貴重な歴史資料が死蔵される状況を一般の都民自らが選んだことに他ならないと指摘します。
最後、冒頭の芸大彫刻科の風景を再び映し、あらゆる芸術活動は社会に関わりを持っていること、ここで学ぶということの背景にあるものは?など可視化していくことが美術の役割や可能性ではないか、と締めくくりました。

講師プロフィール

美術家、映像作家

藤井 光

1976年東京都生まれ、東京都在住。パリ第8大学美学・芸術第三博士課程DEA卒業後、同地でメディア・アーティストとして活動を開始、2005年に帰国。映像メディアを中心にアーカイブ資料などを取り上げ、社会の事象、歴史や記憶、関係性を再解釈し、未来に向けた新たな展望を提示する作品で知られる。作品形態はインスタレーションや映像のみならず、ワークショップの実施、ドキュメンタリー映像の制作、演劇/映画作品の演出とテキストの執筆など幅広い。「歴史の構築は無名のものたちの記憶に捧げられる」(国際芸術センター青森、2015年[ゲスト・ディレクター])、「MOTアニュアル2016キセイノセイキ」(東京都現代美術館、2016年)、「響宴のあとアフター・ザ・シンポジウム」(東京都庭園美術館、2015年[演出・テキスト])、「記憶と想起・イメージの家を歩く」(せんだいメディアテーク、宮城、2014年)、「ジャパン・シンドロームー福島以後の芸術と政治」(HAU劇場、ベルリン、2014年)「自分達のメディアを創る映像祭」(山口情報芸術センター(YCAM)、2011年[監修])など。