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2019
7/1

ケア原論4「みなさんが話したいことを話しましょう」

講師: 湯浅誠( 社会活動家/東京大学先端科学技術研究センター特任教授/全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長)
「皆さんが話したいことを話しましょう」と題して、いつもとは少し違った講義が始まりました。

湯浅さんの希望で、受講生が話したいことを話していく対話形式で行うことになりました。事前に湯浅さんが用意されたお題(話題)と受講生が話したいお題を講義中に募集し、講義が進められました。
湯浅さんからのお題は、子供の貧困、ダイバーシティとインクルージョン、ケアってなに?、などです。この中から、個人的に印象に残ったお話しをいくつかご紹介します。

■「子どもの貧困に実感がないのはなぜか」
日本の子どもの7人に1人が貧困であるとされているが、実感がわかない。
それは、貧しい子どもの姿は日常生活では目にしないから。圧倒的に数が多いのが黄色信号(相対的貧困)の子どもたちであるから。
今日食べるものもない、着るものもない、絶対的な貧困は日本ではほとんどありません。
黄色信号の子たちはご飯は食べてる、学校にも行ってる、スマホも持っているので、見た目ではわかりません。勉強したくても塾に行くお金がない、修学旅行に行けない子たちが黄色信号、相対的貧困の子たちです。
いますぐ、命の危機には晒されていないので見過ごされがちですが、その子たちが将来の社会の担い手になれるかが大事なラインである、というお話でした。

■「ダイバーシティとインクルージョン」
まずは双方の違いについて、受講生から違いを言ってもらいました。
ダイバーシティは違いを肯定する、インクルージョンは同じ土台で生きる、という発言がありました。
ダイバーシティ:多様性、インクルージョン:つながりかた、という理解であると湯浅さん。
昔は社会の多数派、スタンダードであった、若くて健康的な日本人男性。みんな、無理してでもこのスタンダードに合わせなくてはならなかった。
親の介護、妊娠、病気などで働けなくなってきたら、会社に謝らなくてはならない。
しかし、このスタンダードが少数派となった現代では、疑問が湧いてきた。
なんで謝らなきゃいけないんだっけ?
親の介護、妊娠、病気で休暇取らなければならないのは当然じゃないか、ということに気づき始めてきた。結果、多様性を認めよう、働き方改革を推進するという流れになった。
しかし、これは非常に難しいチャレンジである。
働く人、個々の事情に配慮すると、マネジメントが難しくなる。今まではみんな同じパズルのピースであったため、変わりが抜けてもすぐに同じピースを補充できた。
しかし、みんな凸凹のピースになると、変わりがきかない、またはそのピースに合わせた独自の方法を都度作っていかなければならなくなる。
「多様であることはつながりにくくなる。多様性のある社会は分断されていく。」と湯浅さん。

繋がり方の工夫がインクルージョンであり、どうしたらパズルのピースがはまるのかを考えることが重要。多様性は認められるようになってきたが、インクルーシブはまだまだ。
現代は、「ノンインクルーシブダイバーシティ」と言える。
差別はしないが遠ざける。住み分けをする、実際にお付き合いはしない。
多様性は認めるが、繋がらない。認めて遠ざけている状態。
インクルージョンをどのようにつなげていくかが今後の課題である、というお話でした。

この他にもたくさん、湯浅さんと受講生に対話がありました。

講師プロフィール

社会活動家/東京大学先端科学技術研究センター特任教授/全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長

湯浅誠

1969年東京都生まれ。東京大学法学部卒。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。1990年代よりホームレス支援に従事し、2009年から足掛け3年間内閣府参与に就任。内閣官房社会的包摂推進室長、震災ボランティア連携室長など。政策決定の現場に携わったことで、官民協働とともに、日本社会を前に進めるために民主主義の成熟が重要と痛感する。2014〜2019年まで法政大学教授。

著書に、『子どもが増えた! 人口増・税収増の自治体経営』(泉房穂氏との共著、光文社新書、2019年)、『「なんとかする」子どもの貧困』(角川新書、2017年)、『ヒーローを待っていても世界は変わらない』(朝日新聞出版、2012年)、『反貧困』(岩波新書、2008年、第8回大佛次郎論壇賞、第14回平和・協同ジャーナリスト基金賞受賞)、『貧困についてとことん考えてみた』(茂木健一郎と共著、NHK出版、2010年)など多数。

ヤフーニュース個人に連載中の「1ミリでも進める子どもの貧困対策」で「オーサーアワード2016」受賞、法政大学の教育実践で「学生が選ぶベストティーチャー」を2年連続で受賞。「こども食堂安心・安全プロジェクト」でCampfireAward2018受賞。他に日本弁護士連合会市民会議委員、文化放送「大竹まことゴールデンラジオ」レギュラーコメンテーターなど。