• 必修科目
  • ダイバーシティ実践論
2019
10/7

ダイバーシティ実践論7「地球を旅する 生きるための技術=芸術へ」

講師: 石川直樹(写真家)
講義室のスクリーンには、エベレストにつぐ高さのK2(8,611m)をはじめ、「行って見たい」とは簡単には言えない厳しい自然が映し出されています。今日のゲストは、写真家・石川直樹さん。20代で七大陸最高峰を制覇、北極から南極まで人力で踏破するプロジェクトに参加するなど、文字通り、全身を使って世界を歩き、旅を記録し、作品を発表しています。

石川さんが旅を通じて魅せられたのは、自然と共に生きる人たちの知恵です。例えば、ミクロネシアに伝わる、星を見ながら海を渡る航海術。GPSや六分儀はおろか、海図すらない時代、海の向こうに島があるのかを確かめる術はありませんでした。しかし人々は、その航海術を使って果敢に船を漕ぎ出し、周囲の島々に拡散していきました。星だけでなく、波、風を感じ分け、鳥の特徴を見て方向を定める。全身をアンテナにした体を使った航海術です。また北極圏では、スノーモービルではなく、敢えて犬ゾリを使う人々も紹介されました。スノーモービルは、便利だけれど、万が一壊れたら使いものになりませんが、犬は、スノーモービルよりも壊れるリスクが小さい。一見、科学や技術から取り残されたように見える生活様式は、生きるために積極的に選び取られた知恵なのです。

このような生きるための技術をラテン語でARS(アルス)と呼びました。英語のART(アート)の語源です。アートは「芸術」と訳されることが多いですが、語源のアルスは、自然と向き合う人間の「技術」を意味します。医者が患者を治すこともアルスと呼ばれていました。生きるための技術=アートなのです。

「地球はひとつ」ですが、地球上に生きる人それぞれが見ている世界は同じではありません。石川さんは「目前の世界が唯一の世界ではないこと、そして見慣れたものの中に、新しい世界を見出し、提示できる人がアーティストなのではないか」と述べました。知らないことを知ることは怖くもあるけれど、発見にあふれている。ネット検索だけで知ったつもりにならず、赤ちゃんが、触ったり口に含んだりして少しずつ世界を知覚していくように、自分の体験を通して知ること、考えることの豊かさを強調しました。

講師プロフィール

写真家

石川直樹

1977年東京生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。
人類学、民俗学などの領域に関心を持ち、辺境から都市まであらゆる場所を旅しながら、作品を発表し続けている。『NEW DIMENSION』(赤々舎)、『POLAR』(リトルモア)により、日本写真協会新人賞、講談社出版文化賞。『CORONA』(青土社)により土門拳賞を受賞。著書に、開高健ノンフィクション賞を受賞した『最後の冒険家』(集英社)ほか多数。最新刊に、エッセイ『極北へ』(毎日新聞出版)、ヒマラヤの8000m峰に焦点をあてた写真集シリーズの6冊目となる『AmaDablam』(SLANT)、水戸芸術館や初台オペラシティをはじめ全国6館を巡回した個展のカタログでもある大冊『この星の光の地図を写す』(リトルモア)など。都道府県別47冊の写真集を刊行する『日本列島』プロジェクト(SUPER LABO×BEAMS)も進行中。