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2022
10/31

ケア原論10「利他」とは何か

講師: 中島岳志(東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院 教授)
ケア原論第10回では、「利他とは何か」というテーマで東京⼯業⼤学リベラルアーツ研究教育院より中島岳志さんをお招きしました。

⻑引くコロナ禍やロシアのウクライナ侵攻などによって、世界には⻲裂が⽣じ、地球規模の連帯が薄れてきています。そんな中様々な分野で「利他」の考え⽅が注⽬されていますが、「偽善」や「エゴイズム」「うさん臭さ」といった言葉と結び付けられてしまうことも少なくありません。その問題についてどう考えればいいのか。ケアとの連続性はどこにあるのか。これらを中島さんと共に考えていきました。

「利他」とは、一体どういうことなのでしょうか? 「自分」が「誰かに何かをしてあげる」ことこそ利他、と想像するでしょうか。
しかし中島さんによると、利他を考える極めて重要なエッセンスは「受け手の存在」であるといいます。例えば「あの時の一言がありがたかった」と昔のことを思い出すように、利他は「受け手」によって過去からやってくるものであるというのです。

そのように利他を考えたとき、私たちは日々得ている「利他」、すなわち過去から既に受け取っているものがあるということに気がつきます。たとえば、太陽、大地、水といった自然。文化や知識といった死者たちからの贈与。私たちはこれらをほとんど意識することなく日々の生活を送るわけですが、私たちは自分たちの意思を超えて「既に受け取っている」という認識をもつことで「利他」は始まるのです。

利他という問題において、「身(しん)が動く器になる」ということが重要なのではないかと中島さんは主張されました。自身の意志をもとに打算的に行為を遂行していく自分であるのではなく、あれこれ考えることなくパッと身体が動く自分である、ということです。この考え方はヒンディー語の文法「与格」、西田幾太郎による「場所の論理」、柳宗悦による「民芸」など、結びついていくものは多岐にわたります。

世の中に幾許とある利他の存在や 自分自身が利他を生み出す可能性に思いを馳せる、豊かな時間となりました。

講師プロフィール

東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院 教授

中島岳志

1975年、大阪生まれ。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程修了。学術博士(地域研究)。2005年『中村屋のボース』で、大仏次郎論壇賞、アジア太平洋賞大賞を受賞。北海道大学大学院准教授経て、現在、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。著書に『ナショナリズムと宗教』、『秋葉原事件』、『「リベラル保守」宣言』、『血盟団事件』、『岩波茂雄』、『アジア主義』、『親鸞と日本主義』、『保守と立憲』、『超国家主義』『自民党』などがある。