• 必修科目
  • ケア原論
2022
7/11

ケア原論5「いらない赤ちゃん?いてもらっては困る赤ちゃん? ~赤ちゃんを「やむを得ない犠牲者」にしない~」

講師: 蓮田健(医療法人聖粒会 慈恵病院 理事長兼院長)
ケア原論の5回目では慈恵病院で理事長兼院長を勤められている蓮田健さんにお話を伺いました。

蓮田さんが理事長兼院長を務められる慈恵病院では、2007年に新生児保護施設「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」を開設しました。目的は母親による赤ちゃんの遺棄・殺人事件を防止するためであるといいます。

「ほとんどの赤ちゃんが祝福されて生まれてくる中で”いらない赤ちゃん”、“いてもらっては困る赤ちゃん”と言われる子が居るというのは否定できない。悲しいことではあるが、この現実を受け止めて議論や対応を進めていかなければならないと思っている」と蓮田さんはお話を始められました。

「ゆりかご」は、赤ちゃんを育てることが難しい状況にある母親が匿名で訪れ、赤ちゃんを預けるシステム。処置台の上にはハガキが入っており、もし自分で育てたいと思った時にも申し出ることができる仕組みになっています。

赤ちゃんが預けられたあと育つ場所は乳児院、里親家庭、特別養子縁組家庭などさまざまにありますが、「ゆりかご」では特別養子縁組での受け入れをお願いをしているといいます。その理由のひとつとしてあるのが愛着形成です。「愛情深く育てられると自己肯定感も高くなる。お世話をしてくれる人がいると心の安全基地ができ、1歩を踏み出すことが出来るようになる。特別養子縁組をし、戸籍上での親子関係が発生することで覚悟のある親御さんに預かっていただくのがベストなのではないか」と愛着形成の大事さを語られました。

また赤ちゃんだけではなく、困難な状況にある母親をどう守っていけるかという視点も大事にされています。遺棄・殺人、「ゆりかご」、内密出産のケースでは、虐待を受けてきた過去や境界領域も含めた発達障害・知的障害を抱えていたりと、妊娠以前から生きづらさを抱える母親も少なくないといいます。それに加え、家族(特に妊娠・出産における”先輩”である母親)との関係が良くなく、頼れる状況にないことも多くあるそうです。このような背景があることを知っていただきたいそうです。

蓮田さんは「陣痛がきてしまったら後戻りできないうえ、冷静な対処もできなくなってしまう。そういった状況になってひとりで出産をし、遺棄や殺害などの選択をする方もいる」と、陣痛が始まる前に保護をすることの重要さも主張されました。

「ゆりかご」にこれまで預け入れられた赤ちゃんは161人にのぼります。自己責任、自助努力を求める声が少なくない日本の社会において、孤立した妊娠女性を叱らず、寄り添いながら助けることをモットーにした取り組みが今も続けられています。

講師プロフィール

医療法人聖粒会 慈恵病院 理事長兼院長

蓮田健

九州大学医学部卒。慈恵病院で産婦人科部⻑や副院⻑を経て、2020年11月に理事⻑ 兼院⻑に就任。

日本産婦人科学会、日本婦人科内視鏡学会、日本産科麻酔学会、日本女性骨盤底医
学会、子ども虐待防止学会、日本骨盤臓器脱手術学会所属。

慈恵病院(じけいびょういん)は、熊本県熊本市にある医療法人聖粒会が設置・運 営する病院である。 2007年から、マスメディアなどで赤ちゃんポストと俗称される新生児保護施設「こ うのとりのゆりかご」を、日本で唯一設置、運営する。 また、2019年に母親が匿名のままで出産する「内密出産」の受け入れを表明して、 2021年に国内初の「内密出産」に踏み切り、去年以降2人の子どもが生まれてい る。
慈恵病院では年間4800件の妊娠電話相談がある。