1976年神奈川県生まれ。
大学卒業後外資系アパレル企業を経て、2010年より現法人に参画し高齢・障害・保育事業を展開。
2019年認可保育園と障害児通所事業を一体的に運営しインクルーシブ保育の実践「カミヤト凸凹保育園+plus」を開園。
2022年3月には地域共生文化拠点「春日台センターセンター」+「洗濯文化研究所」を開設した。共著に「わたしの身体はままならない(河出書房新社2020)」「壁を壊すケア(岩波書店2021)」がある。
日本社会事業大学大学院 福祉マネジメント研究科修了。
現職:ケアコラボ株式会社取締役/一般社団法人FUKUSHI FOR CONVIVIALITY代表理事/一般社団法人日本医療福祉建築協会 理事/ほか
- 必修科目
- ケア原論
2022
7/4
ケア原論4「相互作用を生み出す福祉」
講師:
馬場拓也(社会福祉法人愛川舜寿会 常務理事 / 洗濯文化研究所 代表)
第4回のケア原論では、社会福祉法人愛川舜寿会の馬場拓也さんにお越しいただきました。 もともと外資系アパレル企業でご活躍されていた過去の視点も交えつつ、理念や近年取り組まれている事業などについてお話しくださいました。
まずお話しくださったのは、愛川舜寿会の3つの理念「共生・寛容・自律」とビジョン「地域の人びとと、ケアを起点としたコミュニティを再構築し社会をやさしくする」。
この理念は職員にも地域の人にも広く共有をしているといいます。3つのうちの1つ「共生」という理念においては、ユーモアで包み込むことの重要性を言及されました。どうにも解決しようがない問題に直面したときでも、その問題を悲壮感をもって捉えるのではなく、ユーモアで包み笑い飛ばす。馬場さんは数々の現場を経てその大事さを実感されたのだといいます。
ビジョンにおいては「地域の人びとと」がまずはじめにくるのが我々の重要なポイントである、とお話しされました。これは専門職だけでは社会は変えられないという意図だそうです。
実践の紹介としては、「生きる力を信じる」という理念のもと特別養護老人ホーム・高齢者デイサービス・高齢者ショートステイなどのサービスを提供する場「ミノワホーム」、認可保育所「カミヤト凸凹保育園」、地域の福祉拠点「春日台センターセンター」の3つをご紹介いただきました。
「ミノワホームには80mほどの外壁がずっと続いていて、この壁が生み出している近寄り難さはずっと気になっていた」と馬場さん。この課題を解決するべく、産学連携のチーム体制のもと庭を地域に開放するプロジェクトを2016年に立ち上げられました。
しかし着工1ヶ月前になった矢先に起きたのが、相模原障害者施設19人殺傷事件。厚労省・自治体からの体制強化要請もあったものの、「こんな分厚い壁の中にいて本当に地域に開かれた施設になっていくのか?」ということを職員とともに考え続けたといいます。最終的に出した答えは「壁を壊す」という決断でした。壁があることによって損失されてしまう地域とのつながりを編み直すことを選ばれたのです。
その結果、庭先でのお茶、洗濯物を干す姿、外でタバコを吸う姿など利用者の方々の暮らしが街から見えるようになり、家族・職員以外の人が人を気にかける仕組みにもなったといいます。
馬場さんが認可保育園には障害の子どもがいないなとふと気づかれたことから着想されたのが「凸凹保育園」。園のコンセプトは「誰しもが持つ『凸』に注目し、誰しもが持つ『凹』をみんなで埋め合う」。障害児通所支援事業「カミヤト凸凹文化教室」に通う児童も保育園の児童と一緒の場で日々 時を過ごし、共に遊び、関係性を築いています。回廊をぐるぐると渡っていくことで違う年齢の子とも触れ合うことができたりと、建築面でも工夫が凝らされています。
このコンセプトに加えてここでも大事にしていることは「まちとつながる」ということ。保育園が高齢者を元気にしていくこともあるといいます。高齢者が毎日保育園の前を通りがかっていたのがある日から園児と関わりあい、次第に化粧が濃くなっていった…つまり「人と接する」という意識が芽生えて元気になったおばあちゃんもいらっしゃったというエピソードも語られました。
スーパーの跡地を使って地域に必要なものができないか?ということを考えた事例が「春日台センターセンター」。
旧スーパーから引き継いだコロッケスタンドや家事労働の軽減として始まったランドリーは、障害のある人が働き、その仕事を支えているといいます。「まちのなかで見えることがとにかく大事」、と馬場さん。施設の真ん中を通る抜け道を作っているほか子どもが来るようにイベントを仕掛け、まちとつながる工夫も様々にされています。「ゆるやかな365日をかけて、地域の人たちがじわじわじわじわ感じていくものを醸成していくということが我々が事業をやって行く意味だと思う」と語られました。
最後に、【ケアとは「時間をあげる」ことである】というケア論のご紹介もありました(『ケア学―越境するケアへ』(広井良典, 医学書院, 2000)による)。
合理化された昨今の社会の中で人間らしさとして残っているものとは「時間のかかること」ではないかと問うとともに、それは地域や相手をケアしているということと同義なのではないか、と投げかけられました。
まずお話しくださったのは、愛川舜寿会の3つの理念「共生・寛容・自律」とビジョン「地域の人びとと、ケアを起点としたコミュニティを再構築し社会をやさしくする」。
この理念は職員にも地域の人にも広く共有をしているといいます。3つのうちの1つ「共生」という理念においては、ユーモアで包み込むことの重要性を言及されました。どうにも解決しようがない問題に直面したときでも、その問題を悲壮感をもって捉えるのではなく、ユーモアで包み笑い飛ばす。馬場さんは数々の現場を経てその大事さを実感されたのだといいます。
ビジョンにおいては「地域の人びとと」がまずはじめにくるのが我々の重要なポイントである、とお話しされました。これは専門職だけでは社会は変えられないという意図だそうです。
実践の紹介としては、「生きる力を信じる」という理念のもと特別養護老人ホーム・高齢者デイサービス・高齢者ショートステイなどのサービスを提供する場「ミノワホーム」、認可保育所「カミヤト凸凹保育園」、地域の福祉拠点「春日台センターセンター」の3つをご紹介いただきました。
「ミノワホームには80mほどの外壁がずっと続いていて、この壁が生み出している近寄り難さはずっと気になっていた」と馬場さん。この課題を解決するべく、産学連携のチーム体制のもと庭を地域に開放するプロジェクトを2016年に立ち上げられました。
しかし着工1ヶ月前になった矢先に起きたのが、相模原障害者施設19人殺傷事件。厚労省・自治体からの体制強化要請もあったものの、「こんな分厚い壁の中にいて本当に地域に開かれた施設になっていくのか?」ということを職員とともに考え続けたといいます。最終的に出した答えは「壁を壊す」という決断でした。壁があることによって損失されてしまう地域とのつながりを編み直すことを選ばれたのです。
その結果、庭先でのお茶、洗濯物を干す姿、外でタバコを吸う姿など利用者の方々の暮らしが街から見えるようになり、家族・職員以外の人が人を気にかける仕組みにもなったといいます。
馬場さんが認可保育園には障害の子どもがいないなとふと気づかれたことから着想されたのが「凸凹保育園」。園のコンセプトは「誰しもが持つ『凸』に注目し、誰しもが持つ『凹』をみんなで埋め合う」。障害児通所支援事業「カミヤト凸凹文化教室」に通う児童も保育園の児童と一緒の場で日々 時を過ごし、共に遊び、関係性を築いています。回廊をぐるぐると渡っていくことで違う年齢の子とも触れ合うことができたりと、建築面でも工夫が凝らされています。
このコンセプトに加えてここでも大事にしていることは「まちとつながる」ということ。保育園が高齢者を元気にしていくこともあるといいます。高齢者が毎日保育園の前を通りがかっていたのがある日から園児と関わりあい、次第に化粧が濃くなっていった…つまり「人と接する」という意識が芽生えて元気になったおばあちゃんもいらっしゃったというエピソードも語られました。
スーパーの跡地を使って地域に必要なものができないか?ということを考えた事例が「春日台センターセンター」。
旧スーパーから引き継いだコロッケスタンドや家事労働の軽減として始まったランドリーは、障害のある人が働き、その仕事を支えているといいます。「まちのなかで見えることがとにかく大事」、と馬場さん。施設の真ん中を通る抜け道を作っているほか子どもが来るようにイベントを仕掛け、まちとつながる工夫も様々にされています。「ゆるやかな365日をかけて、地域の人たちがじわじわじわじわ感じていくものを醸成していくということが我々が事業をやって行く意味だと思う」と語られました。
最後に、【ケアとは「時間をあげる」ことである】というケア論のご紹介もありました(『ケア学―越境するケアへ』(広井良典, 医学書院, 2000)による)。
合理化された昨今の社会の中で人間らしさとして残っているものとは「時間のかかること」ではないかと問うとともに、それは地域や相手をケアしているということと同義なのではないか、と投げかけられました。
講師プロフィール
社会福祉法人愛川舜寿会 常務理事 / 洗濯文化研究所 代表