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2022
12/12

ダイバーシティ実践論11「アートプロジェクト、その後 —「わたしたち」はどこへいく?」

講師: 北澤潤(美術家)
ダイバーシティ実践論第11回では、美術家の北澤潤さんをお迎えしました。

北澤さんはさまざまな国や地域でのフィールドワークを通して、多くのアートプロジェクトを展開されています。
北澤さんが作品の中でテーマとしているキーワードは「もうひとつの日常」。
「私たちは“日常”によってつくられているのでは? そうであるなら、“もうひとつの日常”を作ることでクリエイティブに生きることができるのでは?」という仮説のもと、さまざまに「生きた」アートを作り出されていきました。商店街の空き店舗を居間に変えるプロジェクト、団地をホテルにするプロジェクトなどを国内で展開した後、環境を変えようという思いでインドネシアへ身を移します。

そこで北澤さんは、街の開発に合わせて理不尽に立ち退きを迫られ、家屋を壊された街の人々の姿を目の当たりにしました。そういった理不尽な状況の中でも人々は抗議を行い、壊された家屋の瓦礫を売ったお金や集めた素材で新たに家屋を作っていたのです。北澤さんは、理不尽な出来事に屈することなく創造していくインドネシアの文化に面食らい、アートは弱き者のためにあるということと、逆境の状況だからこそ生み出せるものがあるということを実感されたそうです。そして彼らの力に惚れ込んだ北澤さんは「理想の家」のコンテスト《LOMBA RUMAH IDEAL / Ideal Home Contest》を開きました。

その後、帰国した北澤さんは、アートプロジェクトに結びつくまた新たなキーワードを発見します。それは「ダブル・ローカリティ」。極端に駆け離れたローカリティをふたつ持ち合わせると違うものができる、というものです。これは異なる文化を吸収する・分け合うことで、新しい発想が生まれてくるのではないかという提言なのだそうです。「両方の社会にいることを自分の中に身体化した時の変化は必ずある。それが重要なのではないか。」と語られました。

アートプロジェクトを行う意味とは何でしょうか。北澤さんは、即ち「社会を試作する」ことであるといいます。アートプロジェクトを長期的に持続し続けることは難しいことから、アートプロジェクトで「社会をつくる」ことも、「社会を変える」ことも難しいといえます。しかしアートプロジェクトがあることで社会が「試作」され、できることの可能性を拡張することができる。それがアートプロジェクトを行う意味である、と述べられました。

講師プロフィール

美術家

北澤潤

1988年東京都生まれ、ジョグジャカルタ在住。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。インドネシア国立ガジャ・マダ大学文化学部人類学科客員教授。さまざまな国や地域でのフィールドワークを通して「ありえるはずの社会」の姿を構想し、多様な人びととの立場を越えた協働によるその現実化のプロセスを芸術実践として試みる。近年のプロジェクトに、母国を離れて暮らす人びとの記憶から再現された街をつくる《ネイバーズ・ランド》(2018)、異国を走る人力の乗り物を日本に持ち込み、市民に貸し出していくことで失われた路上の光景を描きなおす《ロスト・ターミナル》などがある。2020年1月には、屋台・鳥籠・市場・人力タクシーといったインドネシアの日常的な路上文化に着想を得た5つのプロジェクトを、ひとつの街で同時展開するアートプロジェクトの個展「You are Me」を実施した。現在は、日本統治時代のジャワのリサーチから、インドネシアに現存する当時の日本の飛行機をバリの伝統的な大凧として再創造するプロジェクト《フラジャイル・ギフト》(2021~)を制作中。国際交流基金アジアセンター・フェロー(2016~17年)。米経済誌フォーブス「30 Under 30 Asia 2016」アート部門選出。