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2022
11/28

ダイバーシティ実践論9「極地冒険から書店へ」

講師: 荻田泰永(冒険家)

ダイバーシティ実践論第9回では北極冒険家の荻田泰永さんをお招きし、「極地冒険から書店へ」という題でご自身の実践をお話しいただきました。


荻田さんはまず「冒険」と「探検」の違いについてお話を始めました。冒険とはつまり「険しきを冒す」ことで、探検とはつまり「探り検べる」こと。それぞれの文字をよく見てみると、冒険はリスクが前提となっているのに対し探検はそうではないことがわかります。それをふまえ、「自分は冒険家であって、探検家ではない」のだと荻田さんは語られました。

荻田さんのフィールドである北極は、陸地である南極とは違い「海」の上。地割れやホッキョクグマなどの危険と常に隣り合わせながら冒険されています。
「北極をひとりで歩いていると五感が鋭くなる。「ホッキョクグマがくるぞ」とテントの中で感じ、ぞわっと鳥肌がたつ」のだそうですが、その感覚はそういった環境に身をおかなければわからないものであるといいます。
荻田さんはその感覚を「スイッチ」と比喩され、「スイッチを使わないと錆びるという体験をしている」、「スイッチの錆を落とすために、身を守る訓練のために危険に身をさらしている」とも語りました。
講義全体のキーワードとして、「衝動」「主体性」という2つのキーワードがありました。

「冒険をなんでやるのか、冒険の意味とはなにかと聞かれることがあるが、事前に理由や意味があってやるのではない。衝動に逆らわずに動くことによって、意味・意義・理由を発見することができる」と荻田さんは語られます。荻田さんはアプスレイ・チェリー=ガラードの「探検とは知的情熱の肉体的表現である」*1という言葉を引用し、この「衝動」を「知的情熱」、すなわち「見たい、知りたい、謎を解き明かしたい」という気持ちとも表現されました。
「知的情熱を持って肉体的表現をするのは人間のみであるから、このガラードの言葉は、人間とはなんぞやという言葉だとも思える」と語りました。

「主体性」は、冒険において最も大事なことであると荻田さんは主張されます。主体性を道具にまで拡張させ、ご自身の経験や地元の方から得た知見をもとに道具を作ることもあり、これがとても面白いのだといいます。そしてこの主体性が重要なのはフィジカルな冒険だけではありません。読書もまた冒険であり、読書もまた自分の頭で考えて自分の答えを述べるという主体性が重要であるといいます。読書は人間が持つ知的情熱を産み育てるツールであるから、読書を通じた新しい冒険ができるように、とご自身で書店*2の開設を始められました。

荻田さんは最後に、「冒険家と名乗ってはいるが、自分がやっていることは結果的に冒険になっているだけで冒険をしているとは思っていない。”冒険” “探検”に替わる第三の言葉を見つけていかなければならない」ということもお話されました。試すという意からその第三の言葉は「○験」だと現状発見しているものの、まだ「◯」に入る言葉の探索はし続けているところだといいます。
我々の「冒険」という概念をも冒険させられる、非常にパワフルな講義でした。

*1 『世界最悪の旅―悲運のスコット南極探検隊』 (朝日文庫, アプスレイ チェリー・ガラード著, 加納 一郎訳,1993)
*2 冒険研究所書店 https://www.bokenbooks.com/

講師プロフィール

冒険家

荻田泰永

カナダ北極圏やグリーンランド、北極海を中心に主に単独徒歩による冒険行を実施。2000年より2019年までの20年間に16回の北極行を経験し、北極圏各地をおよそ10,000km以上移動。世界有数の北極冒険キャリアを持ち、国内外のメディアからも注目される日本唯一の「北極冒険家」。
2016年、カナダ最北の村グリスフィヨルド~グリーンランド最北のシオラパルクをつなぐ1000kmの単独徒歩行(世界初踏破)
2018年1月5日(現地時間)、南極点無補給単独徒歩到達に成功(日本人初)
2018年2月 2017「植村直己冒険賞」受賞
2021年5月 神奈川県大和市に「冒険研究所書店」開業
TBS「クレイジージャーニー」NHK「ニュースウォッチ9」WOWOW「ノンフィクションW」などで特集番組多数。ラジオ、雑誌、新聞など各メディアでも多く紹介される。
日本国内では夏休みに小学生たちと160kmを踏破する「100milesAdventure」を2012年より主宰。北極で学んだ経験を旅を通して子供達に伝えている。
海洋研究開発機構、国立極地研究所、大学等の研究者とも交流を持ち、共同研究も実施。北極にまつわる多方面で活動。
著書:「北極男」講談社(2013年11月)
   「考える脚」KADOKAWA(2019年3月)
   「PIHOTEK ピヒュッティ 北極を風と歩く」講談社(2022年8月)