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2022
5/16

ダイバーシティ実践論３「「個」と「個」が滲み合う、不思議な出会い方を発明する　ーアートプロジェクトの事例からー」

講師： アサダワタル(文化活動家 / 近畿大学文芸学部教員)
3回目の講義では、「文化活動家」としてコミュニティやケアの領域でご活躍されているアサダワタルさんにお越しいただきました。

アサダさんは、現代において「〇〇さん」というような「個人」としての出会いが難しくなっていることから、「個」と「個」というテーマを大事にさまざまにアートプロジェクトを広げられています。元々はバンドマンとして活動されていたアサダさん。表現の仕事を広げていきたいと考えていたところに、表現を皆で共有でき、人と人が繋がる場が必要だと感じたそうです。「自分にとってのアートとは ”これまでにない不思議なやり方で他者と美的に（感性的に）関わり、自己と出会いなおす一連のコミュニケーションづくりのこと”」と語られ、そのアート観の実践として3つの多彩な事例をご紹介くださいました。

孤立しがちな住民の間を手撮りラジオでつないでいく、被災者団地でのプロジェクト「ラジオ下神白」。過疎による閉校などの課題を抱えた小学校に向かい、校歌をカラオケ映像にするワークショッププロジェクト。文化と食をテーマにしながら「地域とつながる」ことを大切に活動していた「品川区立障害児者総合支援施設ぐるっぽ」で広げた、利用者さんと地域とを交流させていくアートプログラムなど。

すべての事例において、アサダさんは『コミュニケーションの「あいだ」に挟むもの』という視点を強調されていました。ラジオ下神白の事例であれば、ラジオを制作していくという表現活動。校歌をカラオケ映像にする事例であれば、映像を制作していくという表現活動。ぐるっぽの事例であれば、ダンスや写真を挟んで交流していくという取り組み、というように。

「あいだ」に挟むものがあれば「その人そのもの」がより見えてくる、とアサダさんは主張されます。

最後には、「あなたにとって他者とのコミュニケーションの「あいだ」に挟むもの（≒表現）ってなんですか？」という問いかけで講義は締めくくられました。

講師プロフィール

文化活動家 / 近畿大学文芸学部教員

アサダワタル

音楽などの表現行為を支点に様々な生活現場に赴き、「これまでにない他者とのつながりかた」をプロジェクトやコンセプトという形で制作、実践、研究、提案。コミュニティやケアの領域を得意とする。アーティスト、文筆家、教員。
2000年代にドラマーやソロミュージシャンとしてキャリアを始め、地域づくりに関わるNPOや寺院に勤めた後、2010年代から市民参加型のアートプロジェクトの演出家として各地で活躍。自宅を創造的に開放し他者とつながりを生むムーブメント「住み開き」の提唱者としても知られる。2016年に滋賀県立大学大学院環境科学研究科にて、音楽によるコミュニケーションデザインにまつわる論文で博士号（学術）取得。2019年より品川区立障害児者総合支援施設「ぐるっぽ」にて、公立の福祉施設では稀有なアートディレクター職を務めた後、2022年より近畿大学文芸学部文化デザイン学科特任講師に着任。大阪公立大学 都市科学･防災研究センター特別研究員も兼任する。
近年の主な発表作は、著作に『住み開き増補版 もう一つのコミュニティづくり』(ちくま文庫)、『想起の音楽 表現･記憶･コミュニティ』(水曜社)、CD作品に『福島ソングスケイプ』(Granny Rideto)、展示演出に「まなざしラジオ!!」(東京芸術劇場, 2020)、コンサート演出に「声の質問19」(東京藝術大学, 2021)など。受賞歴に、サウンドプロジェクト「SjQ++」(ドラム担当)で、アルス･エレクトロニカ サウンドアート部門準グランプリ(リンツ市, 2013)など。

写真撮影：加藤甫