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  • ダイバーシティ実践論
2018
12/3

アーティストの活動9「芸術家と非芸術家の関係から生じる『アートなるもの』」

講師: 西尾 美也(美術家)
昨年度に引き続き、東京藝大の卒業生でもあり現在は奈良県を拠点とする美術家の西尾美也さんにお越しいただきました。
今回は、西尾さんが、自身のプロジェクトに参加した友人や地域の人たちとの関係性の中で生まれた「アート」と呼べるような呼べないような、そもそも呼ぶ必要もないような、そうした行為や実践についてどのように考察しているのかを、「Self Select」と「NISHINARI YOSHIO」という2つのプロジェクトを事例に解説していただきました。
一環して「装い/ファッション」をテーマに活動を続ける西尾さん。それは、「装い」という行為が私たちの日常生活の一番基本的なところにあるが故に、生まれ育った環境の影響を強く受けていること、そしてその影響から解放されにくい状況にあることを踏まえ、あえて「装い」をテーマとした働きかけを行うことによって、新しいコミュニケーションのあり方へと開いていくことを目指している、といいます。

さまざまな都市で見ず知らずの通行人と衣服を交換するプロジェクト「Self Select」では、近代芸術に通底する、アーティストと鑑賞者という固定した関係図式を変容させ、批評や美術館での作品の特権化から解放し、アートピースではない形態で発表することで市場化することへの抵抗する、そうしたことを体現する代表的なプロジェクトとして紹介されました。
また、2016年から大阪市の西成エリアを舞台に進められている「NISHINARI YOSHIO」は、手芸の得意な地元のおばちゃんたちと毎週集まり、毎回さまざまな服作りにまつわるワークショップを重ね、そこから生まれたおばちゃんたちの一点ものの作品を、実際に着ることの出来るデザインに修正し、プロの縫製工場で量産するという、二段階で構成されているプロジェクトです。

どんな感情を伴ったとしても、服は毎日着なくてはならない。
この誰にも当てはまる「装い」の矛盾はアートを考えるうえで大きな魅力の一つであり、またあえて固定化された「アート」やアートの形式を用いない働きかけを積極的に行うことによって、「自分にはアートは関係のない」と思っている多くの人に表現を届けることにつながる方法を考えつづけていると、まとめてくださいました。

講師プロフィール

美術家

西尾 美也

西尾 美也(にしお よしなり)
美術家/博士(美術)。
奈良県立大学地域創造学部准教授。
1982年奈良県生まれ、同在住。
2011年東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。専門は先端芸術表現。研究作品《Self Select in Nairobi》《Overall: Steam Locomotive》と、博士論文「状況を内破するコミュニケーション行為としての装いに関する研究」で博士号(美術)を取得。文化庁新進芸術家海外研修制度2年派遣研修員(ケニア共和国ナイロビ)等を経て、現職。
装いの行為とコミュニケーションの関係性に着目し、市民や学生との協働によるプロジェクトを国内外で展開している。代表的なプロジェクトに、世界のさまざまな都市で見ず知らずの通行人と衣服を交換する《Self Select》や、数十年前の家族写真を同じ場所、装い、メンバーで再現制作する《家族の制服》、世界各地の巨大な喪失物を古着のパッチワークで再建する《Overall》などがある。六本木アートナイト2014ではテーマプロジェクトを手がけ、六本木ヒルズ、東京ミッドタウン、国立新美術館の3ヶ所で古着を再利用した大規模な作品を発表した。
また、2009年には西尾工作所ナイロビ支部を、2013年にはアラカワ・アフリカ実行委員会を結成し、アフリカと日本をつなぐアートプロジェクトを企画・運営している。現代美術家として探究してきた装いに対する考察をもとに、2011年にはファッションブランドFORM ON WORDSを、2018年にはNISHINARI YOSHIOを設立した。