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2018
7/2

当事者との対話11「くぼたたけしと表現未満、」

講師: 久保田 翠(認定NPO法人クリエイティブサポートレッツ代表理事)
2000年にクリエイティブ・サポートレッツが設立以来、続けてきた事は、みんなが大切にされる社会をめざし、様々な人が混ざりあう「居場所」をつくること。代表理事の久保田翠さんとともに重度の自閉症である息子のたけしさん、スタッフの山森達也さん、高林洋臣さんとともに講義を行いました。

「個人は社会の暗黙のルールに併せていくが、重度の知的障害者はルールを認識できない。彼らの存在自体に触れる時、驚きや発見、時には自分の中の不快感に気づくこともあるでしょう。何を感じるのか、どう関係をつくるかをざわざわと考えさせられる。様々な想像力が生まれてくる。かれらは、既存の存在の価値観を変える人たち。アートに近いものを感じる。」(久保)

たけしさんはタッパーに鍵を入れ叩くことが大好きで、飽くことなくやり続けます。今回は持ってきませんでしたが、教室を歩き回ったり、受講生のリュックを触ったり。いらない紙を破ったりします。「みなさんがこの状況をどうとらえるか一緒に考えたくてたけしを連れてきた。」と久保田さん。

久保田さんは、たけしさんのタッパーなど、本人が大切にしていることを、問題行動や病理、取るに足らないことと一方的に判断せず、「表現未満、」の個人の熱意としてとらえ、この行為こそが誰もが持っている「自分を表す表現」であり文化創造の軸であると考えています。そして本来のその人の熱意を存分に発揮できる、誰も排除されない場所づくりを行なってきました。「たけし文化センター」「アルス・ノヴァ」「のヴぁ公民館」「のヴぁてれび」「表現未満、」「観光」など様々な活動とそれに関る人々のいきいきとした様子をお話し頂きました。

日本の福祉制度は家族の上に成り立っており、家族の人権、母親の人権に対しては関心が薄い状況です。親はいつまでも子どもを背負うことは出来ない。かといってグループホームや入所施設に入居することも難しい。障害のある人が自立するためには、その人の「表現未満、」を楽しみに、短時間でも一緒にいてくれる人を増やしたい、と考えているそうです。そういう人と障害者を繋ぐ為に、福祉職員や障害福祉施設があり、アートプロジェクトを通して行なうのがよいのではいかと思っている、と久保田さん。

本来のその人の熱意「表現未満、」を存分に発揮できる場とその人と他者、地域・社会の関係性を紡ぎ、ケアの領域を広げていくスタッフ。福祉の現場でアートが担えるかもしれない役割の可能性を学びました。

講師プロフィール

認定NPO法人クリエイティブサポートレッツ代表理事

久保田 翠

久保田 翠(くぼた みどり)
認定NPO法人クリエイティブサポートレッツ代表理事
障害福祉施設アルス・ノヴァ施設長
武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業後、東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専攻修了。建築設計事務所勤務。重度の障害のある長男の誕生を機に平成12年クリエイティブサポートレッツ設立。同法人理事長。平成20年、個人を文化創造の軸とする「たけし文化センター」事業を開始。平成22年障害福祉施設アルス・ノヴァ設立。平成24年のヴぁ公民館設立。平成28年より個人の生活文化を支援する「表現未満、」プロジェクトを開始。平成30年「たけし文化センター連尺町(仮)」完成予定。
平成29年芸術選奨芸術文部科学大臣新人賞受賞。
法人設立以来、アートを通した社会的包摂に取り組んでいる。