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2018
5/21

当事者との対話5「性的な支援、介助について」

講師: 熊篠 慶彦(特定非営利活動法人 ノアール代表)
日本ではまだ表立った支援がほとんどない性生活の介助。
篠熊さんが代表を務めるノアールは、身体障害者のセクシャリティに関する支援活動や情報発信をとおして、そうした現状の改善を目指しています。
講義の中では、ドイツの事例で、重度の身体障害者のカップルにそれぞれ同性の介助者が付き添い、サポートを受けながら性行為が行われる様子が紹介され、篠熊氏はこれを、「風俗では対応できない、生活の中に自然な介助がある風景」だと伝えました。
その映像は、日本の支援との差を歴然と感じさせるものでしたが、篠熊さんは、ヨーロッパと日本で性に関する価値観に大きな差がある訳ではないと言いました。では何が違うのか。それは、当事者がニーズを口に出さない、出しにくい状況にあると言います。
受講生からも「重度の身体障害者がセックスしたいと思うこと自体認識がなかった」という声があがったように、当事者本人がこうしたニーズを口にしにくい状況がニーズの共有を妨げ、支援者たちの意識の変化を阻み、結果、支援環境が改善されないままになるという、悪循環を生じさせています。
熊篠さんは、「当事者がどうしたいと思っているのかに思いが至らないという現状自体が問題であり、それが一般市民ならまだしも、仮にも福祉職員と名乗る専門職の人たちでさえも同じような発想に留まるとしたら、先行きは暗い」と苦言を呈します。そして、自身も当事者である立場から、性的欲求とそのための対応策の整備は、人間としての当たり前の幸福の追求であると伝えました。

 

文字支援:特定非営利活動法人ホープ

講師プロフィール

特定非営利活動法人 ノアール代表

熊篠 慶彦

熊篠 慶彦(くましの よしひこ)
特定非営利活動法人ノアール代表。1969年、神奈川県生まれ。出生時より脳性麻痺による四肢痙性麻痺がある。医療、介護、性風俗産業など、さまざまな現場で障害者の性的幸福追求権が無視されている現状に突き当たり、ノアールを通して身体障害者のセクシュアリティに関する支援、啓発、情報発信、イベントなどを行っている。性的自助具の開発・実演、西欧・北米の視察など精力的な活動の傍ら、自身が企画・原案・製作に携わった映画『パーフェクト・レボリューション』(監督・脚本:松本准平、出演:リリー・フランキー、清野菜名ほか)が2017年秋、全国劇場公開。編著書に『身体障害者の性活動』(2012年、三輪書店)、著書に『たった5センチのハードル1969ー2017』(2017年、ロフトブックス)がある。