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2020
11/28

ダイバーシティ実践論 特別講義1「なんで僕に聞くんだろう。」

講師: 幡野広志(写真家)
今回の講義は、ゲスト講師の幡野さんとDOORプロジェクトのスタッフ 田中一平さんによる対談形式で行われました。幡野さんはガンを患っていますが写真家として活躍されており、現在は文章を書く仕事や人生相談を受けるなどその範囲は多岐にわたっています。今回は、血液ガンの一種である多発性骨髄腫を発症する前と後での違いや気づきなどについてお話しいただきます。

《写真を撮ること、狩猟をすること》

20年前に見たジャックスカードのCMのコピー「自分の夢に嘘はつけない」から影響を受け、なりたいものになろうと写真家になりました。ガンになってからは、身体的能力が下がり、写真がうまく撮れなくなったそうです。しかしその作品は悪くはない。写真には技術的な上手・下手という軸、良い悪いという軸が別々に存在します。また、幡野さんは写真を撮りすぎないことを大切にしています。カメラで何枚も撮るよりも、しっかり肉眼で見た方が良いと考えるようになりました。

また、過去には狩猟の経験もある幡野さん。はじめたきっかけは、肉を食べるということがどういうことか知りたかったからだそうです。自分で狩って、さばいてと一連の流れを経験できるのは日本では狩猟しかないのです。写真を撮ることと狙い撃つことはどちらも英語で「shooting」と言うことや、二つの行為の共通点についてもお話くださいました。

《ガンになって》

人は弱者と捉えた人には自らの弱い部分を見せられるのか、はたまた自分より完璧で強そうな人には話せないのか、ガンになってから相談されることが増えたそうです。現在も様々な人から相談を受けています。

「妬み」という感情についてもお話くださいました。病人という大きな括りの中で嫉妬を受ける傾向が特にあるとのことです。自分と相手の比較が妬みの発生になるのでしょう。憧れ、羨ましいという感情は良いけれど、妬みはないほうが良い感情です。なぜなら妬みをバネにして上にあがることはほとんどできないからです。

病気になって新たに得られた視点もあります。幡野さんはガンになった当初、下半身が動かず車椅子生活を送っていたそうです。そこで、ちょっとした段差も移動時の障害になることに気づき、空港みたくフラットにすればいいのにと思っていました。この話を視覚障害者の人に話したら、「私達は段差がないと進めない」と返されたそうです。ここから、人は他の弱者の視点には立てない、結局自分の立ち位置からでしかものを見ることはできないのだということに気づきました。また、自分が見ている世界はすごく狭いということを知ることができて良かったとも感じています。

治療が第一という考え方ももちろんありますが、幡野さんは「色々な所に行って、好きなものを食べたい。寿命を延ばそうとするのならステイホームが一番だけど、今日もこの場に来ることが楽しいのだ」と話して下さいました。

 

講師プロフィール

写真家

幡野広志

1983年、東京生まれ。2004年、日本写真芸術専門学校中退。2010年から広告写真家・高崎勉氏に師事。 2011年、独立し結婚する。2016年に長男が誕生。2017年多発性骨髄腫を発病し、現在に至る。著書に『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)、『写真集』(ほぼ日)、『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』(ポプラ社)、『なんで僕に聞くんだろう。』(幻冬舎)。