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2020
5/18

ダイバーシティ実践論2「優生思想と現代―強制不妊手術から考える」

講師: 利光 惠子(立命館大学生存学研究所客員研究員/「優生手術に対する謝罪を求める会」会員)
優秀な人をたくさんつくろう、劣った人は生まれてこないようにしよう。こうした思想のもと、強制的に不妊手術を受けさせられた人々がいます。病や障害を理由に、子を産み育てる権利を奪われました。この考えは人間の生命に格付けをする、生命をコントロールするようなものだといいます。今回の講義では、強制不妊手術(優生手術)の歴史的な経緯や被害者の声、人権回復の動きからみえる課題について学びました。

国民優生法が成立した1940年、日本は産めよ増やせよの時代であったため不妊手術はほとんど行われていません。しかし、敗戦、経済成長の時代へ入ると状況は変化していき、人口増加を防ぐため、福祉のコスト削減のためと、強制不妊手術が実施されるようになっていったのです。

このような手術はどのように行われたのか、いくつかの事例を通して、被害者の思いが語られました。その多くに共通していたことは「何の手術か知らないまま受けた」ということでした。人間として無価値になってしまった、「悔しい、悔しい」と何度も言っていたそうです。では、手術に関わっていた医師や施設の人々はどのような気持ちだったのでしょうか?この問いに対し利光さんは「国の政策として指示されていたこと。現場の人は自分の仕事をまじめに果たしていただけなのでは」と答えています。

国は長い間、「手術は合法的なものだった」と被害者の訴えを受け入れることはありませんでした。それでも人権回復を目指し戦い続け、2019年、優生手術を受けた者に対する新たな法律が成立します。評価できる面もあるとする一方で、給付金320万円は人権侵害に見合う額なのか、大勢いる被害者のうち認められたのはわずか2%にすぎないといった指摘もあります。心と体に傷を残した強制不妊手術の真実を知ると同時に、私たち自身が社会のあり方を考えていかなければなりません。

利光さんが現在の活動をされるきっかけに、自身が経験した「生き苦しさ」があります。利光さんは「優秀な子供を育てなきゃ」という苦しさ、障害のある女性は「産んではいけない」という苦しさを抱えていました。この2つは裏表の問題だと感じたそうです。
待ち望まれる命、生まれるべきではない命という線引きは今も存在しています。再び同じ過ちを犯してはいけません。利光さんは「優生手術が投げかける問題は、過去のものではない」と強く主張しました。

講師プロフィール

立命館大学生存学研究所客員研究員/「優生手術に対する謝罪を求める会」会員

利光 惠子

1953年、兵庫県生まれ。大阪大学薬学部卒業、薬剤師。
調剤薬局自営のかたわら、1980年代半ばに、「母子保健法改悪に反対する女たち・大阪連絡会」を立ち上げる。1990年代以降、「優生思想を問うネットワーク」事務局メンバーとして、女性と障害者の立場から、先端医療のもつ差別の問題や、障害を理由とする不妊化措置について考える活動に取り組む。
50歳で、立命館大学大学院先端総合学術研究科に社会人入学し、出生前診断、特に着床前診断導入をめぐる論争史について研究。博士課程修了、博士(学術)。
2010年から「女性のための街かど相談室ここ・からサロン」を運営、共同代表。
現在、立命館大学生存学研究所客員研究員、「グループ・生殖医療と差別」会員、「優生手術に対する謝罪を求める会」会員。
主な著書に『受精卵診断と出生前診断――その導入をめぐる争いの現代史』(生活書院、2012)、『戦後日本における女性障害者への強制的な不妊手術』(立命館大学生存学研究センター、2016)など。