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  • ケア原論
2020
11/9

ケア原論10「認知症とともによりよく生きる今と未来を考える」

講師: 堀田聰子(慶應義塾大学大学院 健康マネジメント研究科 教授)
認知症になっても社会の役に立ちたい、地域で活動したいと願う人々はたくさんいます。その声を聞き、想いを叶えるために堀田さんは活動を続けています。

長く介護に携わる中で、食べたい時に食べる、寝たい時に寝るという当たり前の行為がいかに奇跡的なことかを学んだそうです。そして、近年進む認知症への政策は本当に届いているのだろうか?世の中は変わったのか?人それぞれ違う「普段の生活」を守れているのだろうか?という振り返りをきっかけに活動を始めます。認知症の人がどんな喜びを持ち、どんな苦しさを抱えているのか、当事者の語りを基盤に、異なる立場の人と共に未来を創っていきたいと堀田さんは語りました。

認知症になりたくないと思う人は多いでしょう。しかし、人間は加齢と共に認知機能が低下し、生活のしづらさを感じていくものです。誰もがいずれは認知症という診断を受けることになります。「認知症にならない」ではなく安心してなれる社会が必要なのです。そして、私たちが持ち続ける「誰かの役に立ちたい」という想いは、診断を受けたからといって変わるものではありません。この想いを実現するための知恵や出会いを堀田さんは探し続けます。

最後にこんな話題が出されました。洗剤などに書かれている「認知症の人の手の届かない所に置いて下さい」という表記。これを見た認知症の人はショックを受け、商品を買えなかったそうです。このような注意書きは実際に起こった事故に対応したもので、もちろん企業は悪くありません。しかし現実はどうなのか、認知症を考える上で様々な論点を含む実例です。

似たことはケアの現場でも起こります。支援者が良かれと思ってした行動が、本人のやりたいことを奪っているかもしれません。料理なんて無理でしょ?まさか一人で旅行しないよね?このような思い込みをなくすためにも、共に生活し、共に創るという経験が必要なのではないでしょうか?

堀田さんが大切にしていること、それは「認知症と共に笑顔で生きる」という丹野智文さんの言葉です。「できないと決めつけて、できることを奪わないでほしい。私たちが求めているのは守られることではなく、周囲の手を借りながらでも自分で課題を乗り越え、自分がやりたいことをやり続けたい。」

人間は一人一人が生き抜く力を持っています。それは認知症の人でも同じです。私たちに問われていることは、この力をどれだけ信頼できるのか、そして環境を整えていけるのかではないでしょうか。

講師プロフィール

慶應義塾大学大学院 健康マネジメント研究科 教授

堀田聰子

京都大学法学部卒業後、東京大学社会科学研究所特任准教授、オランダ・社会文化計画局研究員 兼 ユトレヒト大学社会行動科学部訪問教授等を経て2017年4月より現職。認知症未来共創ハブ・リーダー。博士(国際公共政策)。

社会保障審議会・介護給付費分科会及び福祉部会等において委員を務め、より人間的で持続可能なケアと地域づくりに向けた移行の支援及び加速に取組む。中学生の頃より、おもに障害者の自立生活の介助を継続。訪問介護員2級/メンタルケアのスペシャリスト。日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2015リーダー部門入賞。

主たる共著に『ヘルパーの能力開発と雇用管理』勁草書房(2006)、単著に『オランダの地域包括ケア-ケア提供体制の充実と担い手確保に向けて』労働政策研究・研修機構(2014)、「介護保険事業所(施設系)における介護職のストレス軽減と雇用管理」『季刊社会保障研究』(2010)(第12回労働関係論文優秀賞)等。