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2020
11/2

ケア原論9「超高齢社会における医療と介護の考え方」

講師: 佐々木淳(医療法人社団悠翔会理事長、診療部長)
人間は誰でも歳をとります。自宅での最期を希望する人は多いですが、実際には8割の人が病院で治療を受けながら死んでいきます。高齢化が進み、これまでと同じような仕組みの中で最期の時間を生きることは幸せと言えるのでしょうか?「歳をとる」とは何かを考え、豊かな未来のために必要なケアについてお話し頂きました。

佐々木さんは始めに「自分の最期を考えたことがありますか?」と受講者に質問します。人間の健康寿命は亡くなる10年前までと言われており、最後の10年は病気と共に生きていかなければなりません。また、脳の老化現象である認知症にも、長生きすれば誰しもがかかります。これらの現実に私たちはどう向き合っていけば良いのでしょうか。

高齢者にとって薬や入院よりも必要なこと、それは「食べる」ことです。日本は高齢者に対する栄養ケアを見直すべきだと佐々木さんは考えます。中国の施設の食事を見てみると、揚げ物や炒め物といった茶色い料理が並び、タンパク質ばかり、おかわり自由という日本とは全く違う光景でした。そこで暮らす人々はぽっちゃりとした体型ですが、元気でいきいきとしています。高齢者が陥る低栄養、運動機能低下、廃用症候群といった負のスパイラルを絶つためにも良い食事は効果的です。「歳をとるにつれて太ろう」「食べる力は生きる力だ」と佐々木さんは話しました。

それでもやがて、食べられないときはやって来ます。登山で例えると「下山」にあたる部分です。しかし、ただ死を待つだけではなく、そのルートは自ら選択することができます。どこまで医療を受け、卒業するのか。その人の「生きる」を支えるのがケアの役割です。

授業の中で、認知症になりながらも地域と繋がりを持ち、子供たちにも大人気なおばあちゃんの話がありました。最期まで役割を持って生きていけることは非常に大事なことです。生き甲斐があるかないかで生存率が10%以上変わるというデータもあり、これに勝る治療法はありません。これからは医療と介護だけでは支えきれず、地域の力が必要になる時代がやってくるのです。

患者から生活者に戻すことが自分たちの仕事だと佐々木さんは語ります。そこで最も大切にすべきことが「尊厳」です。「生きる」とは、どんな生活・人生を送りたいかを自分で選択することです。死なないように管理されている今の日本のままで良いのでしょうか?当たり前だと思っていた入院や薬に頼ることのリスクも正しく理解し、今後の高齢化社会を考えていかなければなりません。

講師プロフィール

医療法人社団悠翔会理事長、診療部長

佐々木淳

1998年筑波大学医学専門学群卒業後、社会福祉法人三井記念病院内科、消化器内科にて勤務。
東京大学医学部附属病院消化器内科、医療法人社団哲仁会井口病院副院長、医療法人社
団玲瓏会金町中央病院透析センター長等を経て、2006年MRCビルクリニック(在宅療養支援
診療所)設立、理事長。2008年 医療法人社団悠翔会に改称。
首都圏を中心に全12クリニックで、24時間対応の在宅総合診療を展開している。
編著に『これからの医療と介護のカタチ 超高齢社会を明るい未来にする10の提言』(日本医
療企画、2016)、『在宅医療 多職種連携ハンドブック』(法研、2016)、『在宅医療カレッジ 地域
共生社会を支える多職種の学び21講』(医学書院、2018)等多数。