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2020
12/14

ダイバーシティ実践論9「心の声を伝える 〜聴覚障害という個性と可能性を考える〜」

講師: 大塚 貴之(デフラグビー世界大会 日本代表キャプテン)
今回の講師は、聴覚障害をお持ちの大塚貴之さんです。大塚さんは4人兄弟の末っ子で、彼だけが先天性感音性難聴のため生まれながらに耳が聞こえません。ラグビーとは小学4年生の時に出会い、中学から本格的にプレイし始めました。高校時代は聴覚障害を抱えながらもキャプテンを任され、ラグビー強豪校である帝京大学のラグビー部でも活躍しました。その後、聴覚障害者のラグビーであるデフラグビーの世界大会で日本代表のキャプテンを務め、現在はデフラグビーの普及・強化活動を行っています。

聴覚障害者は1000人に3人と言われています。また、感音性難聴は、内耳にある蝸牛や聴神経といった音を聞き分ける部分に異常があるため、音が小さく聞こえたり全く聞こえなかったりし、音や言葉を聞き分けることが難しいです。そういった点で、聴覚障害は外見上分かりづらい障害であると同時に、相手との意思疎通が上手くいかないこともあるためコミュニケーション障害であるとも言えます。
講義では、まず周囲とコミュニケーションをどのように取っているのか具体的に教えて頂きました。その方法は手話、筆談、補聴器・人工内耳、口話など人によって様々です。どれかだけでは十分ではないため、場面に合わせていくつかを組み合わせて使用します。大塚さんは読唇術、手話、筆談など視覚で理解しています。大塚さんの考えるコミュニケーションの「心技体」の「心」は相手の立場や考え方、感情を尊重して話す・聴く心構え、「技」は敬語、起承転結、頷き、相槌、質問技法など、「体」は姿勢や目線、分かるまで分かろうとする、であると仰っていました。しかし、分からないことも多く、スムーズなコミュニケーションが取れないために分かったふりをしてしまうことも多々あります。様々な場面で「遠慮」ではなく「配慮」がとても大切になってきます。

デフラグビーに焦点を当てると、選手はレフリーを見て判断したり、手を振ってレフリーに伝えるなど、随所に工夫が見られます。他にも、観客が黄色いボードを持ち、選手がレフリーの仕草に気づかない場合はボードを掲げて選手に知らせるといったことも教えていただきました。デフラグビーでは選手、レフリー、観客が一体となりゲームをつくり出すのです。仲間との試合中のコミュニケーション方法については、動きの事前確認やアイコンタクト、身振り手振りが中心となります。
ラグビーには、他のスポーツと違って様々な身長、体格の人が活躍できるポジションがあります。その多様な個性が協力し支え合いながらトライに向かって進んで行くということ。そしてボールを追う理由に障害の有無や体格差は関係ないということ。そういった点に大塚さんは魅力を感じるそうです。大塚さん自身、ラグビーをすることによって仲間ができ、自身に誇りを持てるようになったとのことです。今の夢は、デフラグビー世界大会で優勝すること、そしてそれ以上にデフラグビーをアジアで普及させることだと仰っていました。

聴覚障害は個性の一つです。大塚さんとの対話を通して、聴覚障害者にも多くの可能性があるということ、向き合い方について学ぶことができました。

講師プロフィール

デフラグビー世界大会 日本代表キャプテン

大塚 貴之

1992年5月30日生まれ
小学4年のとき学校のクラブであるタグラグビーと出会い、中学からぶんごヤングラガーズでラグビーを本格的に始める。生まれつき耳が聞こえないながらも大分雄城台高校ラグビー部ではキャプテンを務め、帝京大学ラグビー部、六甲クラブとラグビーを続けた。2018年デフラグビー(聴覚障がい者のラグビー)世界大会では日本代表キャプテンを務めた。現在は、デフラグビーの普及・強化活動に取り組んでいる。

ラグビー代表歴
デフラグビー7人制日本代表
保有資格
ラグビーフットボール協会主管 B級コーチ