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2020
7/6

ケア原論5「誰もが誰かの心と身体を応援する社会を目指して 〜コミュニティナース実践活動より〜」

講師: 中澤ちひろ(Community Nurse Company(株)取締役、(株)Community Care代表取締役)
中澤さんが看護師を志したきっかけは、親しかったおばがリウマチになったことでした。病院にお見舞いに行った際、「こんな身体になってごめんね」と涙を流して自分の存在を申し訳なく思うおばの姿に衝撃を受け、病院にいる人たちが自分の存在価値を見失わないように支えていきたいと思ったそうです。看護師になってからは、病院では患者の悩みまで解決することが難しいと感じたこと、そして治療医療から予防医療へと世の中がシフトしていく中で、医療の舞台もまた病院から暮らしの中に移っていることを踏まえて、well - being(幸せ)のために医療はどうあるべきなのかを考えるようになりました。そのような中で、地域に飛び出す看護師「コミュニティナース」という存在に出会ったと言います。

コミュニティナースは、例えば健康診断の案内が届いても生活の中での優先順位が低いため受診しない、というような「健康への関心が薄い層」を主な対象とし活動しています。これは、彼らが現在の制度や仕組みからこぼれてしまう可能性が高いためです。生活の導線上からアプローチするという点でコミュニティナースは地域の人の身近な存在であり、「毎日の嬉しい楽しい」「心と身体の健康と安全」をまちの人と一緒につくっていきます。では、そもそも私たちはなぜ医療機関にかかる前に健康の専門家に出会うことができないのでしょう?そこには、地域で予防的な看護活動に従事しているのが全国の看護師のうち5%以下であることや、予防的看護は原則制度適用外のため民間主導による事業化が難しいといったことが背景にあると言います。

現在は、育成プロジェクトを修了した約200名のコミュニティナースが全国で活動中です。自由で多様な実践が特徴で、100人いれば100通りのモデルが存在します。多くの住民が利用するガソリンスタンドに常駐するコミュニティナースの例では、ガソリンを入れにきた人に「健康の相談ありますか?」といきなり聞いても戸惑わせてしまうだろうからと、ガソリンを入れながらの日常会話で看護師であることを徐々に知ってもらい、関係を築いていったそうです。普段まちの人がよく行く場所や、楽しいイベントを企画して健康アドバイスを行うのも活動に見られる特徴の一つです。

また、取り組みの中には「地域おせっかい会議」というものもあります。ここではまちの人の強みや特技を活かし合い、できることを相談・考案します。「あの人に何かしてあげたいけど、どうすれば良い?」「こうすれば良いのでは?」というように、地域おせっかい会議はおせっかいしたい人がおせっかい出来る人になる場所なのです。医療・福祉の人、郵便局の人、スナックのママなど多様な人がメンバーとして参加しています。

地域で活動しようと思っても、コミュニティナース一人だけでは何もできません。そこには、チームとして一緒に活動をしてくれるまちの人の存在が欠かせないのです。コミュニティナースは専門家ではなく、その人にとって一番信頼できるともだちだと中澤さんは捉えています。誰もが誰かの心と身体の健康を応援する社会を目指して、いろいろな人が自分なりの良いおせっかいを広げていくまちをつくっていきたいと講義をまとめました。

講師プロフィール

Community Nurse Company(株)取締役、(株)Community Care代表取締役

中澤ちひろ

神奈川県生まれ。
2009年日本赤十字看護大学卒。
大学卒業後、神奈川県や広島県の中山間地域の病院にで臨床を行う。
過疎地域での地域医療に興味を持ち、NPO法人GLOWの地域国際医療研修員として、病棟や在宅医療、カンボジアにて国際医療を経験。
2015年より、島根県雲南市で、コミュニティナースというコンセプトのもと、街の世代間交流の場に訪問看護ステーションコミケアを設立。
2017年よりCommunity Nurse Company 株式会社 取締役に就任。コミュニティナースの育成、コンサルティング・アドバイザリー事業、及び研究事業を手掛ける。
2019年島根県雲南市にて、「地域おせっかい会議」を開始。専門職だけでなく、街の様々な人と共に、良い「おせっかい」が広がる街を目指して活動中。