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2020
6/22

ケア原論3「再考される距離 」

講師: 馬場拓也(社会福祉法人愛川舜寿会)
馬場さんが常務理事を務める社会福祉法人愛川舜寿会の理念は、共生・寛容・自律の三つです。また、地域の人とケアを起点としたコミュニティを再構築し「社会をやさしくする」ことをビジョンに掲げています。では、保育・高齢事業において、馬場さんはどのような取り組みをし、地域との繋がりを育んできたのでしょうか。「距離」をテーマにお話しいただきます。

まず、ミノワホーム(介護老人福祉施設)での取り組みについてです。かつてミノワホームと公道の間には高齢者を事故から守るための壁がありました。しかし、この壁こそが地域との精神的距離を生む原因なのではないか。そう考え壁をなくそうと動き出した矢先に、相模原障害者施設殺傷事件が起きます。世間の流れが防犯強化に向かう中、馬場さんは壁を壊す決断をします。もし、コンクリートで囲まれ陽も当たらないような場所で高齢者が暮らしていたら。日々の営みが見えないことで、彼らを「不要な人たち」というふうに社会に見せてしまうのではないか?地域の人にミノワホームが認知されていないと感じていた馬場さんは、誰もがアクセス可能な庭を設けることで施設そのものや高齢者の営みを地域の風景の中に溶け込ませていきました。

また、最近は何かとオンラインが注目されていますが、馬場さんは以前からそのようなシステムを介護現場に導入していました。その一つが、スマートフォンを活用し職員が入居者の日常を家族に共有するというものです。システムを導入する際、都度情報を共有することで面会者が減ってしまうのではないかという意見があったそうですが、むしろその数は驚くほど増えたそうです。入居者の話題が家族の会話にあがることで、会いに行こうという流れを生むのではないかと馬場さんは考えます。

2019年には「誰しもが持つ凸に注目し、誰しもが持つ凹をみんなで埋め合う」という理念のもとカミヤト凸凹保育園を開園しました。子供が泣いたり騒いだり、のびのびとできる社会をつくらないでどうする?という思いから、子供たちの遊びの自由度を高めるための半屋外空間を園内に設計したり、ミノワホームの庭のように地域の人に接続できる場をつくるなど、空間づくりにも意識を向けています。子供たちは日々訪れる地域の様々な人とふれあい、成長していきます。20年後、30年後の社会をつくるのは子供たちとも仰っていました。

コロナ禍で人との距離を離さざるを得ない今だからこそ、人と人との心理的距離をどう近づけていくかを考えるべきだと馬場さんは言います。一方で、オンラインで繋がることができず置き去りになっている人がいることも忘れてはいけません。「気にかける」というケアに町の人を取り込んでいこう、場をつくり人の繋がりをつくろうと馬場さんは活動しています。こんなことができたら地域がもっと面白くなるのではないかを考え、今後のプロジェクトも進めていきたいと語りました。

 

講師プロフィール

社会福祉法人愛川舜寿会

馬場拓也

1976年神奈川県生まれ。
日本社会事業大学大学院 福祉マネジメント修士課程修了。
大学卒業後イタリアのファッションブランド「ジョルジオ アルマーニ」にてトップセ
ールスとして活躍した後、2010年に2代目経営者として現法人に参画。
これまでに、
空間から人と人の社会的距離を再考し、介護施設の庭を地域に開放する「ミノワ座ガ
ーデン」、居室のプライバシーを改善する「ミノワセパレイ戸」を建築家・造園家・
大学生らと共に実践。2017年より公民館にて市民の語り場「あいかわ暮らすラボ」を
運営。障がいのあるなしによらず共に過ごすインクルーシブ保育園「カミヤト凸凹保
育園+凸凹文化教室」を開園した。2022年にはコミュニティケア拠点「春日台センタ
ーセンター」を開設予定。

著書
『職場改革で実現する 介護業界の人材獲得戦略』(幻冬舎、2015)