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2020
10/5

ダイバーシティ実践論5「先天性盲ろう者におけるファンタジーの理解とは」

講師: 森 敦史 (もり あつし)(筑波技術大学総務課広報・情報化推進係)
 「盲ろう」とは、見えない、聞こえないという2つの障害を併せ持つ状態です。盲ろう者は全国に約14,000人いると言われていますが、実際に把握されているのは900人ほどだそうです。ひきこもってしまう人も多く、社会参加が難しい現実が分かります。 

 様々な困難がある中で、森さんはどのように言葉や概念を獲得していったのか、自身の経験や研究をもとにお話しいただきました。

 森さんは講義を手話で行いました。しかし、森さんは相手の手話を見ることができません。ではどのようにコミュニケーションをとっているのでしょうか?

 相手の手話をする手に自分の手をのせて動きを読み取る触手話、手をタイプライターに見立てる指点字、手の平に文字を書く方法の3つを実演してくださいました。手話が使えない人とのコミュニケーションには50音ボードというものを使います。職場ではパソコンも活用しています。

 実際にお弁当を買う様子を記録した動画や、友達と遊んでいる写真をご紹介いただき、工夫がつまった生活を見ることができました。

 盲ろう者が抱える課題には、コミュニケーションの他に情報入手や移動の困難、相手の表情が分からない、様々な経験をする機会の不足、などがあります。

 特に、先天性の盲ろう児にとってファンタジーの理解はとても難しいことです。触れるものは言葉と繋げることができますが、例えば物語など実際にはないものが自然に情報として入ってくることはありません。森さんは小学生の頃、寝ているときに見た夢を母親に話したことがファンタジーの理解のきっかけになったそうです。夢は人と一緒に体験することができないと気付き、実在するもの/しないものの判断がつくようになりました。

 支援者は盲ろう者を危険から守るため、行動を狭めてしまうことも多いと思うけれど、少しの怪我は大丈夫という気持ちで意図的に経験をさせてあげることも大事なのではないかと森さんは考えています。そうした体験からしか得られない知識もあったそうです。

 最後に、もし障害者に会う機会があったら、様々なコミュニケーション方法があることを頭に置いて、見守り、困っていたら声をかけていただけますか?と受講者に伝えました。 

 盲ろう者が社会とどのように交わっていくのかだけではなく、森さんが物事を理解していくプロセスを知る中で、自分と違った状況にある人と関係を築くためにはどうしたら良いか、そのヒントが盛り込まれた講義でした。

講師プロフィール

筑波技術大学総務課広報・情報化推進係

森 敦史 (もり あつし)

先天性盲ろう者として生まれる。
難聴幼児通園施設やろう学校・盲学校で、コミュニケーション手段としての触手話や指点字等
を学び、先天性盲ろう者として我が国で初めてルーテル学院大学に入学。
2020年に筑波技術大学大学院技術科学研究科 情報アクセシビリティ専攻を修了。
大学在籍時に卒業論文「先天性盲ろう児におけるファンタジー理解の困難と理解にいたるプ
ロセス」、大学院在籍時に修士論文「先天性盲ろう青年における ICT 活用と活用に向けた支
援の可能性」を執筆。
現在は盲ろう者における研究をする傍ら、総務課広報・情報化推進係として、筑波技術大学
に勤務。