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2020
5/25

ダイバーシティ実践論3「『移民』を認めない国で『移民』についてどう考えるか」

講師: 望月 優大(ライター、編集者、株式会社コモンセンス代表取締役)
今回扱うテーマは、海外のものと思われがちな「移民問題」です。ゲストの望月さんは、現実では日本にも存在しているこの問題について総合的な視点を持ってもらいたいと話しました。

望月さんが運営するWebマガジンのコンセプトに「ニッポンは複雑だ。複雑でいいし、複雑な方がもっといい。」という言葉があります。日本は同じような人たちが同じように暮らし、同じような考え方を持っているというイメージがある国です。複雑ではないと思っている人が多いのではないでしょうか。

「移民」という言葉の意味は非常に難しいもので明確な定義がありません。永住資格を持つ人もいれば、短期ビザで滞在する人、去年来たばかりの人もいれば、長年暮らす人もいます。ハーフと呼ばれる人なども含め様々です。近年、日本で暮らす外国籍者や海外にルーツを持つ人々は急速に増え続けています。

これに対し日本政府は、移民政策はとらないといった形で、注目すべき移民の存在などないかのような姿勢を取り続けています。役に立つ外国人労働者はたくさん受け入れたい、けれど定住はできるだけ拒否したいというスタンスです。働く人の支援はするが子供の就学支援などはしない、政治参加して欲しくない、権利を要求しないで欲しいと壁をつくってしまっているのです。一方で、日本国籍者の人口は減少し、外国籍者の割合が増加する。これは、権利を引き算された人々が国内で増えていくことを意味しています。

望月さんは、現在流行している新型コロナウイルスの問題と移民についても触れました。アジア系・中国系の人々への差別、永住資格を持っているのに入国できない、留学生に対する支援の境界線。給付金に関しては「外国人も対象に含める方向」とする一方で、そこには「全員」から漏れる人の存在もあるそうです。

人の移動が活発になっている時代で、「みんな」によって「みんな」が排除されるという現象が起こっているのではないでしょうか。まずは私たち一人一人が、外国人というだけで辛い思いをしている人々の存在や学校・職場で起こっている問題について、現実を知ることが大事ではないかと望月さんは語りました。外国籍の人が増えて多様性が増すのは嬉しいことです。同時に、今の日本の状況をどのように変えていけるのか考えなければいけません。移民の問題は移民だけでなく、その社会をつくっていく私たちの未来の問題でもあるのです。

講師プロフィール

ライター、編集者、株式会社コモンセンス代表取締役

望月 優大

1985年生まれ。日本の移民文化・移民事情を伝えるウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」編集長。著書『ふたつの日本「移民国家」の建前と現実』(講談社現代新書)。株式会社コモンセンス代表として非営利団体等への支援にも携わっている。