ドキュメンタリー映画監督/NPO法人out of frame代表/一橋大学客員准教授国立音楽大学付属高校卒業と同時に、渡米・留学、ピッツバーグ大学で社会経済開発学の修士号を取得。大学時代から、アムネスティ・インターナショナルに関わる。1992年〜2001年、TV制作会社でドキュメンタリー番組のディレクターを務め、「被害者」による死刑廃止運動、回復共同体、修復的司法等、暴力・犯罪に対するオルターナティブな向き合い方を映像化。ATP賞第1回新人奨励賞を皮切りに、ギャラクシー賞大賞、文化庁芸術祭テレビ部門優秀賞等、数多くの賞を受賞。2003年〜2012年、京都文教大学及び津田塾大学で専任教員(メディア・スタディーズ担当)。2009年〜2012年、津田塾大学にソーシャル・メディア・センターを立ち上げ、企画から運営までを担った。ダルク女性ハウスと学生たちの協働的フィールドワーク、薬物依存症やDVの被害者とその子どもたちを対象にした協働的表現ワークショップやイベント、刑務所や少年院での修復的アートワークショップなど。2012年、映画制作に専念するためインディペンデントに。劇場公開デビュー作品『ライファーズ 終身刑を超えて』(2004)で、New York International Independent Film and Video Festival海外ドキュメンタリー部門最優秀賞を受賞。『トークバック 沈黙を破る女たち』(2013)はLondon Feminist Film Festivalのオープニングに選ばれる。2020年、最新作『プリズン・サークル』(2019)が全国で劇場公開中。
- 必修科目
- ダイバーシティ実践論
2020
5/11
ダイバーシティ実践論1「罪を犯した人たちとコミュニティと協働的アート〜国内外の実践とその可能性について考える〜」
講師:
坂上香(映画監督、NPO法人 out of frame 代表)
「協働的アート」とは、複数の人が何らかの関わりを持ちながら、背景の異なるコミュニティをつなぎあう表現活動のことです。罪を犯した人々や暴力の被害者、ケアを必要とする人などを指しますが、私たちは誰でもその立場になる可能性があります。今回の講義では、脱暴力をテーマに活動を続ける坂上さんがそこで見てきたこと、今後の課題についてお話しいただきました。
坂上さんが刑務所で行うアートプログラムは米国の事例を参考にしています。国内の矯正施設でも、俳句やダンスといった表現活動はありますが、それは管理の対象でしかありません。常に監視され、社会とつなぐアートにはなりにくい状況です。米国の刑務所は日本と比較し、表現に自由があります。例えば、好きな画材を選ぶことができたり、批判的なメッセージを持つ作品が生まれることもあるそうです。一般公開の展示会や、アートによる更正プログラムの存在も日本とは異なる点です。罪を犯した人が安全に表現できる場所を考える坂上さんは、アートに対する姿勢の違いを感じたといいます。
このような場を必要としているのは罪を犯した彼らだけではありません。トラウマを抱えた人々の中には、表現することがこわいと感じる人もいます。坂上さんは、DV被害者など女性や子供を対象にした活動も行ってきました。この活動で大切にしていたのは「ここにいていいんだよ」という信頼感を作ることです。お茶を飲んだりお菓子を食べたり、ただ一緒に過ごすだけの時間を経て、少しずつアートへ繋げていきました。
現在は映像制作に専念しているという坂上さんにとって「映画」とは、他者と出会い、会話を生み出す装置です。上映するだけでなく、その後にプラスして何か表現をくっつけることを大切にしています。様々なワークショップを開催し、語り合える場を多く提供してきました。新型コロナウイルスの影響で活動自粛が続く今、離れてしまう距離感にどう対応していくかが課題となっています。
協働的アートは与えられるものではなく、自らが選択し動いていけるものでなくてはなりません。「罪を犯した人」と「それ以外の人」の間にある境界はどのように崩していけば良いのでしょうか。アートはこの2つのコミュニティをどのようにつないでいくのでしょうか。環境や制度を考え続け、それを広めていくために問題はまだまだたくさんあるのです。
坂上さんが刑務所で行うアートプログラムは米国の事例を参考にしています。国内の矯正施設でも、俳句やダンスといった表現活動はありますが、それは管理の対象でしかありません。常に監視され、社会とつなぐアートにはなりにくい状況です。米国の刑務所は日本と比較し、表現に自由があります。例えば、好きな画材を選ぶことができたり、批判的なメッセージを持つ作品が生まれることもあるそうです。一般公開の展示会や、アートによる更正プログラムの存在も日本とは異なる点です。罪を犯した人が安全に表現できる場所を考える坂上さんは、アートに対する姿勢の違いを感じたといいます。
このような場を必要としているのは罪を犯した彼らだけではありません。トラウマを抱えた人々の中には、表現することがこわいと感じる人もいます。坂上さんは、DV被害者など女性や子供を対象にした活動も行ってきました。この活動で大切にしていたのは「ここにいていいんだよ」という信頼感を作ることです。お茶を飲んだりお菓子を食べたり、ただ一緒に過ごすだけの時間を経て、少しずつアートへ繋げていきました。
現在は映像制作に専念しているという坂上さんにとって「映画」とは、他者と出会い、会話を生み出す装置です。上映するだけでなく、その後にプラスして何か表現をくっつけることを大切にしています。様々なワークショップを開催し、語り合える場を多く提供してきました。新型コロナウイルスの影響で活動自粛が続く今、離れてしまう距離感にどう対応していくかが課題となっています。
協働的アートは与えられるものではなく、自らが選択し動いていけるものでなくてはなりません。「罪を犯した人」と「それ以外の人」の間にある境界はどのように崩していけば良いのでしょうか。アートはこの2つのコミュニティをどのようにつないでいくのでしょうか。環境や制度を考え続け、それを広めていくために問題はまだまだたくさんあるのです。
講師プロフィール
映画監督、NPO法人 out of frame 代表