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2023
2/8

ケア実践場面分析演習 作品 【絵本『猫の気持ち』 絵・文 こっちゃん】

講師: 金野千恵(建築家/teco)
<実習先>
こっちゃんち(特別養子縁組家族)


<実習先の概要>
特別養子縁組とは、養子となるお子さんの実親との法的な親子関係を解消し、実の子と同じ親子関係を結ぶ制度です。(厚生労働省HPより抜粋)
こっちゃんは生後すぐに、乳児院へ。2歳半で里子として迎えられ、5歳の時に特別養子縁組が成立しました。現在は保護猫のモモコも家族に加わり、3人と1匹で暮らしています。


<実習の様子・テーマの設定までの道のりなど>
2022年の夏、小学4年生になった、こっちゃんと出会いました。お父さんから「こっちゃんは、話すより書く方が、気持ちが表せるようです」と教えていただき、見せていただいたのが、物語『猫の気持ち』。夏休みの課題用に書きはじめ、途中で書くのをやめていました。どこか、こっちゃん自身を投影したかのような、主人公の猫。その猫が外の世界に憧れ、家を飛び出し、冒険する物語を読み、わたし達は心を揺さぶられました。「最後まで物語を書いて、絵も描いて、絵本『猫の気持ち』を一緒に創ろう!」と提案。およそ半年、こっちゃんとやりとりを続け、絵本『猫の気持ち』が誕生しました。


<作品タイトル>
絵本『猫の気持ち』 絵・文 こっちゃん

<作品について>
日々の暮らしで、相手に気持ちが伝わらないこと、理解されないもどかしさを感じることは、誰にでもあります。けれど、どんな感情であろうと、紙とペンは受けとめてくれる。そして、それがアートになる。わたし達は物語に託された、こっちゃんの気持ちに耳を澄ませ、物語の本質を、絵本の形に結晶させることに集中しました。そして、ひとつの作品を共に創りながら、年齢や立場を超え、お互いの気持ちが通い合うこと、創るよろこびを一緒に分かち合えること、こっちゃんとの共同作業から学びました。とても賢くチャーミングな、こっちゃん。
少女の眼差しに映る世界を、物語から想像してください。


<全体を通してのチームの感想>
福祉と藝術。どちらにも共通するのは、ソーシャルワークの醍醐味かもしれません。得意なことや経験、それぞれの社会資源を持ち寄り、自由に組み合わせる工夫の連続から、突破口が生まれます。プロセスを共にしていると、相手が何を大切にしている人か、次第にわかるように。そして、理解と信頼が育まれました。共に試行錯誤する間柄からしか生まれない至上の喜びが、そこにはあります。こっちゃんを筆頭に、9歳から55歳までが協力し、絵本『猫の気持ち』は誕生。それは「文化的処方」と呼べる体験だったかもしれません。評価を得ることが目標ではなく、しっくりくる完成形を目指し、それぞれが創るプロセスを楽しみました。

(文責:こっちゃんちチーム)

 

講師プロフィール

建築家/teco

金野千恵

1981 年神奈川県生まれ。2011 年東京工業大学大学院博士課程修了、博士(工学)。2013-16 年 日本工業大学助教。2015 年より t e c o を共同で設立。現在、東京大学、東京藝術大学など゙にて 非常勤講師。住宅や福祉施設の設計、まちづくり、アートインスタレーションを手がけるなかで、仕組みや制度を横断する空間づくりを試みている。主な作品に住宅「向陽ロッジアハウス」、訪問介 護事業所「地域ケアよしかわ」(2014)、「幼・老・食の堂」など。2021年より、京都工芸繊維大特任准教授。