INTERVIEW

ありのままの姿を認めたい

DOOR4期生
岡崎千恵(おかざき ちえ)さん

ーDOORを受講したきっかけを教えてください

私は18才以上の重度知的障害者の方が通う施設で支援員として働いています。施設ではアートに力を入れ始めたところで、外部講師を呼んでアート活動を行っています。パラリンピックの開催時期には皆でメダルをモチーフにした作品を作り、園内に飾りました。アート活動を行うまで、利用者さんがどんな絵を描くのか知りませんでした。絵が額装されて園内に飾られていることが利用者さんの強みになっているのを感じますし、こういう活動が皆の力になっているんじゃないかと思います。

 職場の研修で目白にあるアートに特化した福祉作業所に行ったとき、床や壁に絵の具がついてもいいし、自由にしていいよ、という場所が設けられていたんです。そういう、皆が自分の力を発揮して表現できる環境があることが、彼らにとってすごく良いんじゃないかと思っていたりして。こういう体験から福祉とアートが一体になったら面白いなと思っていたんです。

そんなときに息子と上野に遊びに行こうと美術館を調べていたらDOORの存在を見つけました。

応募までに3日くらいしか時間がなかったんですけど、これは応募したいな、と。間に合うかな?と、ドキドキしながら徹夜をして書類を揃えました。

 

-岡崎さんが「福祉×アート」が自分にマッチするな、と感じたのはどうしてでしょうか?

次男が自閉症だったので、3歳くらいから療育センターに通っていました。そこに来る子たちが皆すごく純真な子たちばかりで。この子たちのために何か自分の時間を使えないかと思いました。それから東京福祉大学に通って社会福祉士の資格を取り、いまの職場で働いています。

うちの子は作ることが好きで、よく絵を描いたり立体の作品を作ったりしているんですよ。その子のありのままの姿を認めていくのに、他の人にも福祉とアートという入り口から理解してもらえたらな、と。福祉とアートというフィルターを通すことで、自閉症は大変なことだけじゃない、ということを知ってもらえるかもしれないと思っています。

 

ー授業を受けて印象に残っていることはありますか?

DOORを受講して最初の授業が、映画監督の坂上香さんによる、罪を犯した人を更生するというテーマの授業だったんです。そのことにとてもびっくりして。罪を犯した人たちをどうやって更生していくのか、という。良い、悪いではなく、そういう人たちに接するのはすごいことだなと思いました。でも社会を良くしていくためには必要なことだし、それを実践しているのはすごいな、これはすごい授業だな、と思いました。

自閉症の子を育てていて、育児の大変さは他の人には分からないものだと思っていたんです。でも、体験しないと分からないことはもちろんあるけれど、当事者が社会を良くしていくために少しでも自分の体験を発信することが大切だなと思って。自立するために一生懸命社会と闘っている講師の方々。そういう当事者の姿を見てとても元気をもらいましたし、自分もそうありたいなと思いました。

ケア実践場面分析演習の授業もとても印象に残っています。実習先のロング朋子さんと初めてミーティングをしたときに、ロングさんが「ソーシャルワークのグローバル定義って知っていますか?」と仰ったんですよね。あっ!と、社会福祉学を学んだときに胸を熱くしたことを思い出したんです。ロングさんの、里親制度がソーシャルワークとして機能していないなら自分でやるしかない、社会変革をもたらすんだ。という姿勢にとても刺激を受けました。

 

ーケア実践場面分析演習の「子どもたちの生きる環境」
というテーマについてはどう感じましたか?

特別養子縁組を知り、子どもを受け入れる養親の覚悟に触れることができたのは大きな体験でしたし、それをもっと世の中の人にも知ってもらいたいと思いました。

養親へのトレーニングプログラムは確立されていて、小さい頃から何度も子どもの成長過程で真実告知を行い、親子の愛情を確かめ合うことをしていくそうです。周囲の人に「私は養子です。」と言えるように寄り添っていくことが必要であり大切で、それを実践して社会に普及させているロングさんの愛を感じました。

授業の成果物として私たちのグループが制作した、接木をイメージして編み物で花が咲くような作品には、包んであげるとか社会のセーフティネットとして受け止めるという、いろいろな意味を込めました。

 

-受講してみて、心境の変化はありましたか?

生きづらさを抱えている当事者の皆さんが「助けて」と周囲に頼れる、そして助け合って自立を獲得し道を切り開いてきたことを学びました。そのとき助ける側にも喜びや学びが生まれます。迷惑をかけて、かけられることも受け入れて生きていく、そうすることで誰もが生きやすい社会になるのではないかと考えるようになりました。

あとは福祉施設で働く職員として、利用者さんの環境を考えるのはもちろんのこと、働いているスタッフの環境も良くしていかないといけないな、と強く感じています。

行動を起こすことは難しいけれど、そういう姿勢でいつも考えていたら、発言や態度も変化して周りに伝わるものがあるんじゃないかなと思うんです。

 

-お話のなかで”障害のある人が生きやすい環境”というキーワードがあると感じました。岡崎さんの考えるダイバーシティや生きやすい環境とはどんなものですか?

電車やバスの中で独り言を言っている人がいたら、えっと驚くこともあるじゃないですか。そういう気持ちも分かるけれど、温かい目で見守ってあげてほしいと思いますね。うちの子は独り言を言ってしまう自閉症の特徴があるんですけど、攻撃性はないということを知ってもらえたらなと。

これは一つの例ですが、周りの人たちに障害に対する理解みたいなものがあったらいいなと思います。

 あとは、いまダイバーシティを認めていく流れがある一方で、利便性を求めすぎている社会になっている気がしていて。でも、コロナ渦でステイホームになって、少し意識の変化が生まれたんじゃないかなと思うんです。コロナ禍になったことで学校や家庭のありがたみとか、生きているだけで嬉しい、みたいなことが認識できたと思います。悪いことの中にも良いことは必ず含まれているなと、この歳になって思いますね。

これから社会はどんな方向に進んでいくのかな、と思うんですけど、私は少し立ち止まれたなと感じています。辛いことも沢山あったけど、そういうことも全部引っくるめて皆で生きていきましょう!という感じですね。

 

ー最後に、修了後の活動について教えてください

今でも修了生の方が主催する気功の会に参加したり、授業で余った粘土を使って陶芸作品を作る「あまり粘土クラブ」で会ったりしています。うちの息子は高校生なんですが、一緒にあまり粘土クラブに行ったら作ることに夢中になっていました。周りの方たちも、うちの子がわーっと立ち上がってしまっても気にしないでいてくれて。私もすごく気楽に通えています。

DOORには寛容な姿勢というのがあるんですかね。障害の話とか、自分が考えているセンシティブなことを話し合える人って少なかったけど、とことん何でも話し合えるお友達ができたことはすごく財産になったなと思っています。

個人の活動としては、今度引っ越す家にギャラリーとか創作小屋を作っちゃおうかなと思っているんです。畑も付いているので農業もやろうと思って。

ゆくゆく、収穫祭とか皆が来てくれるような場所になればいいと思っています。

2021年11月
聞き手:高橋美苗(DOORスタッフ)
撮影:北沢美樹(DOORスタッフ)