第43回定例会 3.11後、福島を描くために考えたこと。福島を描くなかで考えたこと。
開催日:2024年2月17日(土)
【講師と演題】
加茂 昂さん 「3.11後、福島を描くために考えたこと。福島を描くなかで考えたこと。」
NEXTDOORでは毎年「東日本大震災」に関するテーマを取り上げた定例会を開催しており、2月の第43回定例会では、3.11以降福島の帰還困難区域でのフィールドワークやリサーチを重ね制作を続けられている画家の加茂昂さんにお話を伺いました。
加茂さんは震災前年の2010年に東京藝術大学大学院を修了。スタジオがある埼玉県で震災にあいました。ボランティア先の宮城県石巻市で商店街のシャッターに絵を描いているときに、地元の人から「色が失われた街に色が戻った」と感謝された経験により、「絵にも出来ることがあるんじゃないか」と感じ、「絵画」と「生き延びること」は同義との思いが湧いてきました。
それから福島の問題に絵で取り組むようになりました。最初は趣味の登山をモチーフに切り立った雪山を福島に見立てて困難な状況に置かれた人々を描きましたが、だんだん世間で震災への関心が薄れていくなかで、雪山に例えても何も伝わらないと感じるようになりました。
その頃(2017年)個展開催の機会があり、広島の原爆や熊本の水俣病に向き合い、「市民が描いた原爆の絵」の模写や「水俣病患者等の制作した石彫」のスケッチを行なうなかで多くの示唆を得たといいます。
広島、水俣での体験に前後して、友人の一時帰宅に同行し、福島県富岡町の帰還困難区域に入りました。また、2019年には富岡町小学校の「アーティスト・イン・レジデンス」で制作を行ないました。ここでは立ち入り禁止の境界線に立っているフェンスや看板に注目し、風は吹き抜けていくのに、人間だけがフェンスの前に立ち尽くしていることの意味を考え、作品を制作しました。さらに、除染により表層の大事な土を剥ぎ取られた田んぼを見て、自分の排泄物をコンポストトイレで分解して「堆肥絵の具」を作り、剥ぎ取られた土地を埋め戻すイメージで絵を描きました。
加茂さんは「風」と「土」から「風土」について考えます。「風土」とは「風を含む土」のことである。人が土を耕す中で歴史としての風を含ませていくこと、さらに自分の中に取り込むことが「風土」ではないかといいます。原発事故で失われたのは福島の風土であり、祈り(過去と未来の両方にできる限り想像力を働かせてその両方をつなげて考え続けること)と共に画布に蘇らせようとしています。
そして加茂さんは、現在「芽吹く絵画」に取り組んでいます。膠を混ぜた「堆肥絵の具」に家庭菜園で採取した種を練り込んで絵を描き、ここから芽が出ないか試しています。現在子育て中の加茂さんは、新しい生命の誕生と成長にも新たな制作の関心を寄せています。
学生時代から震災を経て10数年に及ぶ画業の変遷をそれぞれの時期の作品に即して語っていただくという、とても貴重な時間を過ごすことができました。また、改めて福島の現在について思いを馳せると共に、今年元旦に発生した「能登半島地震」も踏まえつつ、記憶し続けることの大切さをかみ締めることができました。(世話人藤井)
加茂 昇さん https://akirakamo.net/
【画像説明】
プロフィール写真
kamo1、タイトル:ゾーン#1 制作年:2012
kamo2、タイトル:個展「その光景の肖像」展示風景 制作年:2017
kamo3、タイトル:惑星としての土/復興としての土#2 制作年:2023