第25回定例会 記念講演「共生社会」をつくるアートコミュニケーション共創拠点
開催日:2022年6月25日(土)
2022年6月のNEXT DOOR定例会は、25回目となることを記念して、東京藝術大学社会連携センター特任教授伊藤達矢先生をお招きし、ご自身がプロジェクトリーダーを務める東京藝術大学をはじめとした12の大学・企業・団体の連携による「『共生社会』をつくるアートコミュニケーション共創拠点」(以下「共創拠点」)についてお話しいただきました。
最初に「共創拠点」とは、国立研究開発法人科学技術振興機構(略称JST)が公募する「共創の場形成支援プログラム」(10年後20年後の社会的課題に対応する研究や取り組みを今から事業・研究拠点化するもの)として採択された事業であるとの背景説明がありました。「共創拠点」としては、2030年には65歳以上の高齢者が国民の約3人に1人となる超高齢化における「望まない孤独・孤立」が「個人の社会的健康のみならず経済的観点からも社会への大きな打撃となる」との課題設定のもと、「個々人の尊厳が認められ、誰もが生涯を通して社会に参加でき、生きがいと創造力をもって生活できる共生社会」の実現を「ありたい未来の社会像」に掲げました。
そのため英国の医療現場での先進的事例である、薬ではなく社会との関係性を処方する「社会的処方」と「リンクワーカー」を援用し、「芸術と福祉とテクノロジー」の融合によって、福祉施設や地域社会等においてコミュニケーションを誘発することができる新たな芸術体験「文化的処方」を開発し、それを専門人材「文化リンクワーカー」が高齢者等に届けます。
その仕組みの実装について、①全国の国立美術館を始めとする文化施設の活用、②移動手段や社会参加の入口としてのメタバース、③アーティストによるリアルな福祉施設や文化的施設での活動、の3方向を考えています。さらにそのために必要なこととして、①「システム、ディバイス、データ基盤の一体的構築、②「文化リンクワーカー」の育成・組織化、③文化的処方のエビデンス構築の準備を進めています。
すでに様々な企業・団体の高齢者向け見守りサービスがあることの紹介がありました。そのうえで、それらのサービスや、医療機関、福祉セクターと文化セクターが結びつき直すことが必要であると言います。さらに大事なこととして専門家だけではない幅広い価値観を共有している人たちと大きな連携をしていきたいと考えています。最後に伊藤先生は、「共創拠点」として、企業・行政・研究機関・大学等による多様で柔軟な産官学のプラットフォームを作り新しい社会的回路を生みだすことを目指したいと締め括りました。
その後の質疑では「文化リンクワーカー」育成について等活発なやり取りが交わされました。本記念講演では、多くのDOOR生に加え上野を拠点とするとびラー(とびらプロジェクト)他各地のアートコミュニケーター、合計170名を超える参加があり、本テーマへの関心がきわめて高いことを実感しました。実例や具体的構想のご説明も豊富で、参加者それぞれが自らの活動への多くの気付きを得るとともに、「文化リンクワーカー」としての将来の役割への期待が膨らむ、とてもワクワクする貴重な時間となりました。(世話人藤井)