第32回定例会 東日本大震災とアート〜向き合って12年、いま伝えたいこと〜

NEXT DOOR世話人

開催日:2023年2月25日(土)

【講師と演題】(登壇順)
佐藤李青さん 
「震災後から『災間』へ:メディアをつくる/メディアになる」 
瀬尾夏美さん 
「記憶を語り継ぐとは?  “被災地”で制作しながら考えてきたこと」

NEXTDOORでは毎年「東日本大震災」をテーマに取り上げた定例会を開催してきました。第32回定例会では、「東日本大震災とアート〜向き合って12年、いま伝えたいこと〜」と題し、佐藤李青さん、瀬尾夏美さんにお越しいただきました。

佐藤さんはアーツカウンシル東京 プログラムオフィサーとして、東京都による芸術文化を活用した被災地支援事業「Art Support Tohoku-Tokyo」に、2011年の立ち上げから事業が終了する2021年までの10年間携わってこられました。岩手・宮城・福島3県のパートナー等に伴走しながら、自らがメディア(媒介者)であったり、メディアをつくることで、活動の「間」(あいだ)をつなぐ仕事をしてきました。
震災5年後に支援のあり方を振り返り、『6年目の 風景を きく 東北に生きる人々と重ねた月日』というインタビュー集をまとめた中で、非常時と平時は地続きだなと強く感じました。 

その後、自分達が各地の活動の繋ぎ手になる必要性を感じ、新たなメディアとして、ジャーナル『東北の風景をきく FIELD RECORDING』(Vol1~5、2017年~2021年)を発行しました。その過程で、ほかの土地の厄災の「経験はリレーすること」が見えてきました。
佐藤さんは、アートの新しいあり方が震災の後に生まれてきたと言います。それは「術(すべ)としてのアート」であり、さまざまな災禍の経験の間に生きる「災間」の社会を、ともに生きるための視点と技術となるもので、本来は共有できない「わたし」の体験(被災等)を「わたしたちの経験」に掬い上げるものです。一例として、音楽を通じ想像力を使った関係づくりに取り組んだ、文化活動家のアサダワタルさんを中心としたプロジェクト「ラジオ下神白」を紹介くださいました。

続いてアーティストの瀬尾さんが登壇されました。瀬尾さんはレジュメの表紙に掲げた自作の絵を紹介されてから、話を始められました。
絵を描きたくて大学院に進学するタイミングで大震災が発生し、同級生の小森はるかさんと被災地へボランティアに行きました。語りや風景の変遷を記録することに向き合うために、1年後には小森さんと岩手県陸前高田市に移住しました。
そこでは集落全部を花畑にする等、アーティストではなく、地域の人達のやむにやまれぬ思いの表現が生まれていました。その「切実な表現」を記録したいということが今に至る創作活動の原点となりました。

その後の大規模な復興工事による震災後にできつつあったコミュニティーの解体は、「第二の喪失」とも言うべきものでした。それは都市開発やダム建設に付随する問題と相似形であり、陸前高田の人と一緒にそのことを可視化していけば他の土地の人とも繋がっていけると感じて、小森はるかさんと『波のした、土のうえ』という映像作品を制作し、日本各地の災禍の記憶のある土地(神戸・新潟・広島等)を巡回しました。

陸前高田で進行していた嵩上げ工事を見つめて生まれたのが、かつての地層とあたらしい地層を生きる人びとの交流を描いた『二重のまち』という物語です。この物語をいろいろな人に朗読してもらっているうちに、10年たってようやく一つの絵が描けたと、冒頭の絵について語られました。瀬尾さんは、今まで出会ってきた人たちと、災禍の記憶を繋いでいく新たな活動を進めています。

それぞれの話の後は、お二人によるクロストークと参加者との質疑が行なわれました。「語りや詩」という身体的メディアのもつアートの力や「表現」についての活発な話し合いが行なわれ、震災を契機とした今日のアートの捉え方や役割について、多くの気付きを得る貴重な機会となりました。(世話人藤井)

◆参考図書

10年目の手記  震災体験を書く、よむ、編みなおす – 生きのびるブックス株式会社 (ikinobirubooks.co.jp)
瀬尾夏美さん、佐藤李青さん他13人の手記執筆者(2022年3月刊行)