INTERVIEW

以前より、自分の感覚に素直でいようと感じるようになりました

DOOR6期生
渡邊浩正(わたなべ ひろまさ)さん

DOORを受講したきっかけを教えてください

美術館で募集チラシを見つけたことがきっかけです。
なんとなく気になって家に持ち帰りましたが、仕事のことや宮城県在住であることを考えると実際に参加するのは難しいかな?と感じ、しばらく引き出しにしまって放置していました。当時はコロナ禍の真っ只中で、コロナ前は当たり前だったことが、外出自粛要請などで難しくなってしまったことが少なからずありました。自分は絵を描くことが好きで、コロナ前は月に数回デッサン会やクロッキー会に参加していましたが、コロナの影響で、開催自粛や人数制限などで以前のように参加するのが難しくなり、何となく閉塞感のようなものを感じていました。そんな状況からか、絵を描くことの意味や、アートの役割などを考えることが増えていきました。考えてみたものの、知見のない自分には全然分かりませんでした。そのような経緯から、様々な分野の専門家からアート×福祉をベースとした多様な考え方を学べるDOORの講義は、自分にとってとても魅力的に感じたのが一番の理由です。
2つめの理由として、自分の仕事内容があります。
現在、塗料メーカーで調色業務に従事しています。色見本などからお客様が希望する色艶の塗料に仕上げることが主な仕事内容です。どんなアート作品にも色が関係しています。色を塗らない作品にも、鉄の色、木の色などがあります。色が作品や社会に与える影響などにも関心がありました。また職業柄、社外の人間との接点が少なく、自分の考え方やモノの捉え方が狭まったり、偏ったりしてきているのでは?という不安がありました。色々な職業や年齢の方が参加するDOORで色んな意見を聞いて視野を広げたいという思いもありました。
そのような背景からDOORを受講したい思いが徐々に強くなり「細かいことは書類審査を通過したら考えればいいや!」と、半分勢いで応募しました。

実際にDOORを受講してみた感想を教えてください

受講するにあたって、自分のなかでひとつ決めていることがありました。それは、出席可能な科目を選択し、極力出席できるよう調整するということです。必修科目(ダイバーシティ実践論・ケア原論)はリモート講義なので、地方在住でも心配は少なかったですが、選択科目には対面講義のものもあります。対面講義ではグループワークも多くあると聞いたので、欠席が多くなってしまったり、途中で受講を断念すると同じグループの方に迷惑が掛かることになってしまうからです。
その点については事前のガイダンスで、選択科目の内容や年間日程に加え、対面講義、リモート講義の丁寧な説明があったおかげで無理のない科目選択ができました。

私はプログラム実践演習を選択しました。理由は「変化し続けるパブリックアート」というプロジェクトに興味を引かれたことに加え、対面・オンラインどちらでも受講できる科目だったからです。
せっかくなのでリモートだけでなく対面でも参加したいと考えていたので、タイミングが合う日程の時は実際に芸大の取手校舎に行って受講しました。野焼きに参加した際は、火を囲むと、普段は画面上で顔を合わせている参加者の方々が身近に感じられ、原始から伝わる火のパワーを感じました。

「プログラム実践演習」での野焼きの様子

実際、受講して感じたのは、「経験したことのないことを体験することは、幾つになっても楽しい!」ということです。
自分の場合、仕事とのバランスを考えた結果、選択科目はプログラム実践演習1科目のみ参加となり、6期生のなかで履修科目は少ない方でしたが、合計86時間受講して無事修了することができました。地方在住でも、複数の選択科目を受講している方も多くいらっしゃいましたし、個々の事情に応じて色んな学び方ができるのがDOORの良さだと思います。授業案内や課題提出についてもスタッフの方々からこまめに連絡を頂けるので、忘れたり、提出が遅れたりということもなく安心して受講できました。
今になって感じることは、多少無理をしてでも特講に参加する機会を増やしたかったと感じています。参加させて頂いた特講「ワークショップブレインストーミング」は、様々な意見を聞くことで考え方の引き出しが広がりましたし、特講「人体デッサン」も久しぶりに描いてみて、難しいけど、すごく楽しいという感覚も思い出せ、自分にとって貴重な機会になりました。

 

特講「ワークショップブレインストーミング」

 

印象に残っている授業や実習について教えてください

たくさんあるのですが、「ダイバーシティ実践論」の松田崇弥氏が講師を務めた回の講義です。
松田氏の講義を受講したのはもう1年以上前になりますが、最近のことのように鮮明に記憶に残っています。お隣の岩手県にこんなに魅力的でかっこよく福祉とアートを結び付けている、ヘラルボニーという会社があるなんて…宮城県在住の自分にとっては衝撃的でした。
「異彩を放て。普通でないこと。それは同時に可能性だと思う。」ヘラルボニーを象徴する言葉であり、講義で記憶に残った言葉です。社会では能力主義の会社が増えています。それと裏腹に、知的障害がある人が描いた絵ということで正当な評価を得られない現実。その実情と向き合い、正当に評価して世の中に発信していく活動に心が揺さぶられました。
健常者であっても、苦手なこと・人より劣っている部分は必ずあり、その分野に関してはハンディキャップがある人だと思うのです。障害者だから…という単純な理由で片付けるのではなく、障害があるから出来る事・秀でた事があり、それをリスペクトできる社会になってほしいし、自分もそうありたいと考えています。

選択科目の「プログラム実践演習」も印象に残っています。W杯アジア予選に参加した46か国を受講生で割り振り、担当する国をリサーチし「応援する人・文化を纏う人」をテーマにCUPを制作しました。私はクウェートを担当したのですが、リサーチすると自分が住んでいる地域との繋がりに驚かされました。東日本大震災の際、いちばんの支援国で義援金の4割がクウェートからだったことは、当時から宮城県在住ですが全く知りませんでした。感謝の気持ちで3つCUPを制作しました。そのうち1つは三陸鉄道とクウェートの繋がりをテーマにして、実際の車両に記載されている「クウェート国からのご支援に感謝します」という言葉をクウェート語で作品に刻印しました。
出来上がった作品を国際交流棟(東京藝術大学国際交流棟(Hisao&Hiroko TAKI PLAZA)パブリックアートとして展示して頂いたのも良い思い出になりました。

 

 

ーオンラインでの受講はいかがでしたか?

自分にとっては、初めてのオンライン受講で、Zoomを使うのも初めてだったので、正直不安が大きかったです。スタッフの方々が自分の様に不安がある方の為に、本格的に講義が始まる前にオンラインレクチャーを実施して下さったおかげで、接続方法やカメラなどのアイコンの意味・使い方を知ることができ、不安を取り除くことができました。
必修科目の「ダイバーシティ実践論」と「ケア原論」については、基本的に月曜日の18時20分開始でしたが、休み明けの月曜日は仕事が忙しく、帰宅して受講することは難しかったのが実情です。自分の場合は18時位に退社させてもらい、車通勤なので駐車場の車内で受講するか、会社近くのテレワーク用の個室があるネットカフェで受講することが多かったです。18時退社が難しい日もありましたが、理解のある上司で助かりました。
退社してすぐ講義に参加できるのがオンライン講義の最大の魅力だと思います。
講義の開始時間で参加が難しいと考えている方もいらっしゃるかもしれませんが、周囲に少し協力してもらえれば参加する手段はいろいろ考えられるということを伝えたいです。
そんな状況での参加でしたので、必修科目については、全ての講義を受講することが出来ました。

自分のような地方在住の場合、オンラインで受講できるということは大変ありがたいことだと感じました。オンライン講義の普及前であれば、DOORにも参加できず、貴重な講義を聴くことが出来ませんでした。地方から参加を考えている方で、オンライン講義に不安を感じている方もいらっしゃるかもしれませんが、想像するよりずっと簡単なのでぜひ参加してみてください。

−受講してみてご自身の心境の変化などがあれば教えてください

アートというフィルターを通じて、これまであまり接点がなかった福祉という分野に触れることができ、様々な考え方や取り組みについて学ぶことができました。
講義でダイバーシティの考え方を学ぶなかで、以前よりも自分の感覚や考えに素直でいようと感じるようになりました。以前は周囲と考え方が違い、自分が間違っているように感じることもありましたが、現在は自身の考えを肯定できるようになりました。
修了後、障害の有無に関係なく様々な人と同じ空間で絵を描く機会がありました。集中力や発想の豊かさに驚いたのと同時に自分も触発され、充実した時間となりました。
受講前に考えていたアートの意味や役割については、はっきり分かった訳ではありませんが、そういった人と人との関わりを深めることで大きな役割を果たすということを感じています。

特講「人体デッサン」

 

2023年8月