INTERVIEW

「授業受けただけ」じゃないぞ

DOOR3期生
栁 倫之(やなぎ みちゆき)さん

なぜDOORに興味を持ったのですか

NPO法人で若者の居場所支援と学習支援をしています。居場所支援では、生活困窮世帯の若者、高校生から30代くらいの人たちと料理をつくったり、みんなで出かけたり。学校に行きづらい外の世界との接点が少ない若者たちが、いろんな人とかかわりながら自分の将来を考える場です。学習支援では中学生高校生を対象に、大学生や元教員のボランティアさんたちと一緒に勉強を教えています。そういう、福祉とか教育と呼ばれる分野の仕事をしていますが、大学時代は芸術系で音響や映像の勉強をしていました。

何かの展覧会でDOORのチラシを見たとき、自分がやって来た福祉と芸術、ふたつのことを重ね合わせることができると思ったんです。ちょうどいいのかもな、って。

「東京藝大ならちゃんとしているんだろう」とも思いました。

東京藝大なら、余分なお金とられたりすることもないだろうと(笑)。

受講を決めて、職場に「こういうことやってみたい」と相談すると、「柳がやりたいんだったらやってみな」と言われました。

必修授業がある月曜も出勤し、毎週4時ぐらいに「行ってきまーす」と言って早退していました。同僚や子どもたちに「大学行くようになったんだね」とは言われましたが、割とみんなドライで、何をやっているかとかを深く聞かれたことはなかったんですが、通学することについてはみんな応援モードでした。日帰りの実習で福島に行くなどで休むこともありましたが、「大学の授業」と言うと、基本的につねに優先させてもらえました。それもあって、仕事との両立にはあまり苦労しませんでした。恵まれていたと思います。

 

どんなグループワークをしましたか?

ケアの現場をより社会に開かれた場とする実践を行うケア実践場面分析演習では、実習先として、「暮らしの保健室あつぎ」を選びました。自分の困りごとや悩みごとを相談でき、必要なサービスに繋げて解決する応援をしています。ジェラート屋さんも併設しています。

ここは、「自分の得意分野で、できる範囲で参加する」という方々のサポーター制度で成り立っています。行政書士が月に1回来所して相談に応じたり、仙台だったかな、遠方から野菜を格安で送ってくる人がいたり、そういう人たちで成り立っている。この制度がすごくいいな、素敵だなと思ったので、それを発信し、あわよくば新しいサポーターが生まれればと考えました。

まずサポーターの方に、暮らしの保健室と自分がかかわるきっかけになった本を提供してもらいました。その本に自分がどんな立場でどのようにかかわっているかのメッセージを書いてもらい、さらに手作りのしおりを挟みました。しおりには、本を読んだ人が感想や気になった一文などを残していきます。集まった本を置く本棚をつくり、オープンイベントをしました。

ジェラートを食べる人は、そのジェラートに使われている野菜を誰がどんな気持ちで送ってきたか知らないですよね。でも、本としおりを通して、そういう「気持ちのやりとり」が伝わればと思ったんです。

この本棚、実習がすんでハイ終わりではなくて、今でも置いてくださっているんです。嬉しいですよね。

グループは4人でした。僕以外はみんな年上の女性で、病院の理学療法士、IT企業のシステムエンジニア、アーティスト。同じものを目指してもアプローチはそれぞれ違います。仕事もバックグラウンドもバラバラですので、スケジューリングは大変だし、ものの考え方やことばの感覚なども違います。だからこのプロジェクトをどう円滑に進めるか、みんなのいいところをどうやって出していくかを考えていました。僕自身は先陣を切って走ったというより、グループの調整役だったのかなと思っています。

もうひとつのグループワークではどんなことを

「ひみつジャナイ縁日リサーチプロジェクト」のグループワークでは、自分から手を挙げました。このワークは、社会や他者・自分に対して違和感や疑問など様々な想いを持つ人が店長となり、その想いを祭の縁日の屋台で、空間やワークショップを作って伝える、というものです。その店長プレゼンに立候補したんです。

僕がいつも職場で関わっている子たちは「勉強がめんどくさい」「アルバイトいやだ」とか言います。で、僕らは子どもたちに「やってみたら」「おもしろいんじゃない?」「一緒にやろうよ」と言うんです。いつもはそういう側にいる自分が、ここで待ちの姿勢でいるのはダメだろうと。

テーマにしたのは、こういうことです。僕、朝が苦手なんです。寝坊しそうになると「今日はあの子に勉強教える予定だったな」「今日はゲームやろうって言ってたな」「一緒に楽器演奏する約束してたな」と、今日会う予定の人の顔が思い浮かびます。そうすると遅刻していられない。その人たちが自分の行動の原動力になっている。このことを屋台のテーマにしたいと思ったんです。でも、テーマだけで、具体的な方法は思いついていませんでした。

ほかの店長さんたちは「このテーマで、こういうことをします」と方向性までちゃんと決めてプレゼンされたんですが、僕は「このテーマです、でも、やり方まだ決めていません」という状態。それでも、話を聞きに来てくれた人がいた。嬉しさと同時に安心感を覚えました。

安心感

同じような視点で、同じようなことを大事に考えている人、話していて「あ、それわかる」となる。そういう人がここにはいるんだということです。みんな普段は違う場所で違うことをしている人たちなのに。

 具体的に言うと、たとえば仕事が続かない子がいます。その子が就職してまた辞めた場合に、すぐ次の就職が決まればよいのか? それ、違いますよね。なんで辞めてしまうのかというところが問題ですよね。人とうまくかかわれないとか、何のために働くのかをきちんとわかっていないとかの理由があるかもしれません。だったら、就職よりもそこにまず向き合わないといけない。

病気も、退院したから即ハッピーじゃないですよね。そのあとどう病気と付き合っていくか、本人と周囲の人がそれにどうかかわっていくかという、地域や社会まで含めた視点こそが大切なんじゃないか。

そういうことに共感してくれる人がいて、さらに、「それ大事だよね」と言うだけではなくて、実際に作品づくりを一緒に体験できたのが大きかったです。

 

3期生、修了したばかりですね

1年間、早かったですね。もう終わっちゃった。まだ職場の人からは、「柳君、月曜の夜ダメだったよね」なんて言われています。

授業で先生が話していたことがパッと思い出せないし、勧められた本も読めていない。まだ自分の中にしみこんでいないんですね。咀嚼中です。そういうふうに、「授業受けただけ」じゃないぞ、と思わせてくれるのが DOORなんだと思います。

ここで出会った人たちと、これからいろんなことをやれるんじゃないかという予感はあります。まだ具体的にこれというのはないんですが、何かプログラムをやろうと思ったときに、一緒にやろうよと声かけたり、かけられたり。そうやってつながっていくのかな。受講生の全員と親しくなったわけでないので、今になって、あの人なんて名前だったかなとか、何してる人だったっけとぼんやり思い出したりします。もっといろんな人に話しかけておけばよかったなあと思っています。

 そういえば、受講生は藝大の図書館を利用できるはずですが、結局1回も行けていないんです。もうちょっと利用期間延びないかな。あと、講座のe-ラーニングがあるんですが、また見たいなあ。ほんとに、お世話になりました。