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2019
6/3

ダイバーシティ実践論6 「ダイバーシティと「表現未満、」~社会・福祉・家族~」

講師: 久保田 翠(認定NPO法人クリエイティブサポートレッツ理事長/ 障害福祉サービス事業所アルス・ノヴァ施設長)
重度の自閉症である息子のたけしさん、家族、そして久保田さん自身の居場所を作るところから始まった、クリエイティブサポート レッツ。
その人のあるがままを認め、障害のある人の存在と障害福祉施設を、アートを通して社会に開いていく。
その活動は私たちに、人間とは何か、芸術とは何か、障害とは何か、という本質的な問いを投げかけます。

たけしさんは、タッパーのような入れ物に石を入れて、鳴らし続けます。
幼少の頃から飽きることなく、所構わずこれを続けています。
特別支援学校に在籍していた12年間、様々な訓練をしましたが、自分でご飯を食べること、洋服の脱着、排泄も自分ひとりでできませんでした。

"いろんな訓練をしたが、彼は何ひとつ獲得できなかった。
ただ、入れ物に石を入れて鳴らし続けることは手放さなかった"と久保田さん。
"多くの人は、これを問題行動と言う。だが、これは彼の一番大切な行為。
問題行動とは、一体誰にとっての問題行動なのか"と問いかけます。

"取るに足らないこと、無意味なことと片付けず、私はこれをアート活動と意味付けた。既存の価値に異議を唱えることがアート。本人が大切にしていることが、文化創造の軸であると考えている。"
"彼らの行動には、過剰と逸脱がある。これらはあまり良いことと捉えられていないが、人間らしい行動。それを肯定するために、アートという言葉を使っている。"

こうしたレッツの取り組みは、様々な形で社会へ開かれています。
近年開始されたのは、観光。ツアーとして施設へ行き、障害のある方と一緒に過ごしてみるという、ライトな関わり方を提案しています。
そして、2018年11月にオープンした「たけし文化センター連尺町」は、
シェアハウスとゲストハウスも併設され、障害や他者を知る機会が作られています。

多様な人びととの出会いをきっかけに、自分のあり方や生き方を考える。
レッツの観光事業「タイムトラベル100時間ツアー」のパンフレットにはこんな言葉が書かれていました。
"人生の「答え」はありませんが、「問い」は見つかるはず"

福祉施設などにある、物理的な壁。
その壁を作っているのは、私たち一人ひとりの心理的な壁なのではないか、と感じました。

講師プロフィール

認定NPO法人クリエイティブサポートレッツ理事長/ 障害福祉サービス事業所アルス・ノヴァ施設長

久保田 翠

武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業後、東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専攻修了。建築設計事務所勤務。
重度の障害のある長男の誕生を機に2000年クリエイティブサポートレッツ設立。
2008年、個人を文化創造の軸とする「たけし文化センター」事業を開始。
2010年障害福祉施設アルス・ノヴァ設立。
2014年のヴぁ公民館設立。
2016年より個人の生活文化を支援する「表現未満、」プロジェクトを開始。
2018年11月浜松市中心市街地に重度の障害のある人を核とした文化創造発信拠点「たけし文化センター連尺町」完成。

2017年度芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。
法人設立以来、アートを通した社会的包摂に取り組んでいる。