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  • ダイバーシティ実践論
2017
12/11

アーティストの活動・文化事業から考える7「海外での支援 / 現場での実践に基づくダイバーシティについて」

講師: 小貫 大輔(東海大学 教養学部 国際学科 教授)
およそ20年にわたってブラジルで生活していた小貫さん。
ブラジルでの実践に基づくお話をしていただきました。

ブラジルに赴いた当初、モンチアズールというファベーラ(スラム)でエイズ予防の仕事に従事されました。30年前はまだまだコンドームは世界中で普及しておらず、当時のブラジルではコンドームが使われていなかったそうです。予防啓発を訴えるセクシーなポスターが話題となり、エイズ予防の施策は大成功したそうです。
HIV患者に対するケアのお話では、毎日楽しく生きることが大事な治癒法だという話をされました。「エイズは免疫の病気だから、ネガティブになると発病してしまう。自分がいつ死ぬかを考えるよりも、より充実して生きることを考える。」というブラジル人の価値観に共感しました。

その後、助産を広めるプロジェクトに従事されました。ブラジルは、世界で最も帝王切開が多い国で、10人中9人が帝王切開だったそうです。当時のブラジルには助産婦さんがいなかったため、日本の助産婦に来てもらい、5年をかけて助産を広めるプロジェクトを実施されました。

小貫さん曰く、この2つのプロジェクトは、オキシトシン系のプロジェクトで、ブラジルは、このオキシトシンを社会関係にうまく使う国だというお話がありました。
オキシトシンとはホルモンの一種で、陣痛をおこしたり、母乳が出たりすることもオキシトシンが影響しています。環境に影響されやすく、ちょっとでも緊張すると出なくなってしまうホルモンです。
オキシトシンが高まると、周りの人への信頼が高まるという結果もでているそうです。

ブラジルでは、見知らぬ人と頬に挨拶のキスをしたり、ハグをしたりしますが、その行為・挨拶自体がオキシトシンを分泌する秘訣になっているのではないか、と小貫さんは語ります。
教室の中でも、実際にブラジル流の挨拶を実践してみました。
右頬を合わせ、キスは実際に唇を触れずに、音だけ。頬を合わせあうようにします。
この挨拶でオキシトシンが出て、相手との関係性が近くなったように感じます。

毎日を楽しく、充実した人生を情熱的に生きること。恥ずかしがり屋の日本人が挨拶でハグをしたり、キスをしたりするのは慣れるのにまだしばらく時間がかかりそうですが、毎日を楽しく生きることはそれぞれが考え、実践できることだと感じました。

講師プロフィール

東海大学 教養学部 国際学科 教授

小貫 大輔

東海大学教養学部国際学科教授。東京大学及びハワイ大学で性教育を学んだあと、1988年よりブラジルに渡る。サンパウロのファベーラ(貧民街)でシュタイナー思想のもとコミュニティ作りに取り組む「モンチアズール住民協会」に参加、エイズ教育のボランティアとして働いた後、日本政府派遣の専門家として自然分娩推進や子育て支援をめぐる国際協力活動に携わる。2006年に帰国して現職。日本では、ブラジル学校やシュタイナー学校などのオルタナティブ学校を応援する活動に関わるほか、日本人にブラジルのキスの挨拶を教える授業に力を入れてきた。著書に『耳をすまして聞いてごらん-ブラジル、貧民街で出会ったシュタイナー教育』(ほんの木)他。