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2019
12/23

ダイバーシティ実践論11「資源、アクセシビリティ、メンバーシップ」

講師: 塚本 由晴(建築家/東京工業大学大学院教授)
ダイバーシティの問題に建築家はどう関わっていくのでしょうか。

塚本さんのお話には「バリア(=障壁)」という言葉が何度も登場します。「バリア」をどのように発見し、その「バリア」に対してどうチャレンジしていったのか、これまで携わってきた事例を紹介しながら、授業は進められました。

塚本さんがコモンズの再構築を考えるきっかけとなったのが東日本大震災です。漁村集落では、森・村・集落・海は繋がっていて、この「事物連関」が地域の中で成立することで穏やかな生活が守られていました。ところが震災は、このネットワークを破壊したのです。塚本さんは漁師たちとの話を通して、村と森の間にある「バリア」に気付きました。集落の人々は、壊れた村の復興に自分たちがつくった森は使えないと諦めていたそうです。そこにある資源を利用して村の復興だけでなく、林業やネットワークの復興、そして漁業を守っていけるようなまちづくりを提案しています。

講義の中で、計画をすることの難しさが伝わるエピソードもありました。計画の段階での想定は、全てを語ってはいないと言います。現実は違った、ある人々を排除していた、ということが実際に起こり得るのです。それは優れた建築物にもあてはまり、設計することが無意識に「バリア」を生み出してしまっている現状もあると塚本さんは語ります。その問題点と向き合うような展示物の紹介もされました。

続いて取り上げられたのは「恋する豚研究所」という施設です。加工肉の工場+レストランで構成され、障害者の労働問題に寄り添ったプロジェクトが展開されています。社会の「バリア」を壊していけば、誰でも普通に働けるのです。店舗にとどまらず周囲の杉林に目を向けた塚本さんは、資源の活用と障害者への新たな仕事の提供を思いつきました。そしてこの地でも「事物連関」を築き上げようと取り組んでいます。

他にも数多くの事例と共に、私たちは「資源・アクセシビリティ・メンバーシップ」の大切さ、関係性を学びました。「バリア」があるから参加できない、「バリア」があるから認められない。それこそがダイバーシティの問題だと塚本さんは考えています。障壁を崩して、地域資源にアクセスできる人々をつくることが建築のプロジェクトの役目ではないか。多様性があると思っている閉じられたネットワークから、一歩飛び出せるような人材が必要だと主張しました。

最後に「空間と事物連関は鋭く対比する」と受講者に伝え、講義を終えました。

講師プロフィール

建築家/東京工業大学大学院教授

塚本 由晴

アトリエ・ワン/東京工業大学大学院教授、博士(工学)
1965年神奈川生まれ。1987年東京工業大学工学部建築学科卒業。
1987 ~88年パリ・ベルビル建築大学。
1994年東京工業大学大学院博士課程単位取得退学。
1992年に貝島桃代とアトリエ・ワンの活動を始め、建築、公共空間、家具の設計、フィールドサーベイ、教育、美術展への出展、展覧会キュレーション、執筆など幅広い活動を展開。ふるまい学を提唱して、建築デザインのエコロジカルな転回を推進し、建築を産業の側から人々や地域に引き戻そうとしている。

近年の作品に、恋する豚研究所、みやしたこうえん、BMW Guggenheim Lab、Canal Swimmer’s Club、Search Library in Muharraqなどがある。
主な著書に『メイド・イン・トーキョー 窓と街並の系譜学』(鹿島出版会)『ペットアーキテクチャー・ガイドブック 窓と街並の系譜学』(ワールドフォトプレス)『ペット・アーキテクチャー・ガイドブック』(ワールド・フォト・プレス、)『メイド・イン・トーキョー』(鹿島出版会)、『アトリエ・ワン・フロム・ポスト・バブル・シティ』(INAX出版)、『図解アトリエ・ワン』(TOTO出版)、『空間の響き/響きの空間』(INAX出版)、『Behaviorology』(Rizzoli New York)、『WindowScape 窓と街並の系譜学』(フィルムアート社)、『コモナリティーズ ふるまいの生産』(LIXIL出版)などがある。