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2019
5/20

ダイバーシティ実践論4「社会・人との関わりを通して考えるダイバーシティ」

講師: 石田祐貴(筑波大学 人間総合科学研究科 大学院生)
3-5万人に1人と言われる「トリーチャーコリンズ症候群」。顔周辺の骨が未発達・未形成の状態で生まれます。石田祐貴さんは頬骨がなく、顎が小さいため、特徴的な外見です。骨の奇形は、身体機能にも影響があり、発音/発声がしづらく、耳が聞こえづらい障害もあります。見た目と身体障害は、石田さんの「人との関係づくり」に大きな困難をもたらしました。あからさまな視線、冷ややかな反応、からかい。人の話が聞こえづらく、自分の発声も不明瞭なため、コミュニケーションに感じる壁。石田さんは悩み、中学時代には不登校でした。

石田さんの悩みの根本はなんでしょうか。外見と障害でしょうか。石田さんは「外見や障害そのものではなく、“それらが原因で起こる困難”」と捉えます。通常「社会モデル」という言葉で語られますが、問題の要因を個人の能力/機能ではなく、それを取り巻く社会環境であるとする考え方です。「車椅子の人が2階に移動できないのは、車椅子が原因ではなく、エレベータがないため」、「人間関係が築けないのは、見た目が問題だからではなく、外見に対する周囲の偏見のため」などです。石田さん自身、声が聞き取れず会話に入れなかった時、「今こういう話をしていたんだけど、石田さんはどう思う?」という一言で救われたことがあったそうです。バリアフリーだけでなく、ちょっとした心配りで当事者の置かれた環境は改善されるとも言えます。

一方で、石田さんは、社会だけに変わることを求めません。当事者も社会に働きかけることが必要だと強調します。生きてゆく上で克服できないことは、誰にでもある。他者や社会環境は変えづらい。でも自分の内面なら変えられる。石田さんは自身の障害を受け止め、人との接し方を変えました。悩み抜いた末にたどり着いた「変えられるものを変える」という覚悟。障害の有無に関係なく、私たちそれぞれが抱える悩みの捉え方にも当てはまることだと感じました。

互いの個性を認められる社会に大切な要素として、石田さんは「知る・受け容れる・ほんの少しの思いやり」の3つを挙げました。病気や見た目は変えられない。でも、病気について知ることは、社会の意識や“見る目”を変え、当事者を受容することに繋がります。そして特別扱いではなく普通に接してくれたら嬉しい、と石田さん。お互いがお互いの居場所を作る気持ちが多様性のある社会につながる、と講義を締めくくりました。

講師プロフィール

筑波大学 人間総合科学研究科 大学院生

石田祐貴

1992年に大阪府にて生まれる。筑波大学大学院人間総合科学研究科博士後期課程に在学。
生まれながら顔付近の骨の奇形が特徴的な症状としてみられる「トリーチャーコリンズ症候群」(Treacher- Collins syndrome)の当事者。「見た目問題」や「聴覚障害」について、自身のこれまでの経験を通して発信を行いながら、それらの問題に対する社会的認知度・理解の向上を目指して活動している。