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2022
1/24

ダイバーシティ実践論14「人間の社会力を進化と文化から読み解く」

講師: 山極 壽一(総合地球環境学研究所 所長)
 今回は、総合地球環境学研究所所長の山極壽一さんと、進化や文化の歴史をたどり、人間の社会力やコロナ禍以降の社会について考えました。

 これまで人類は進化の一途を辿り、広く地球に繁栄してきました。しかし、今回の新型コロナウイルスのパンデミックにより、この地球は人類ではなく微生物やウイルスの惑星だということを我々は思い知らされたと山極さんは語ります。ここでは、新型コロナウイルスの感染対策として提唱されている3密(密集・密閉・密接)が集団生活を営む人間社会の性質に由来していることや、人類の進化史などについて類人猿やサルと比較しつつお話くださいました。

 また、現代は言葉から文字、電話、インターネットへと続く通信情報革命や人口知能の登場によって知識偏重傾向にあり、情緒的社会性が希薄化していることもご指摘されました。デジタル社会は便利ですが、結果として人やモノを情報化・均質化していくという一面もあります。人間はそれぞれ違う個性を持ち、またゼロから1を生み出す能力を持っていることを忘れてはいけません。多様なものであることが人間なのだと、山極さんは言います。加えて、人間が生きる上で不可欠なものとして"文化"を挙げ、文化の多様性と調和は、類人猿が持っていない3つの自由(移動する自由、集まる自由、対話する自由)によって共有されてきたとのお考えを話されました。コロナ禍ということでこれら3つの自由にも制限がかかっている現在ですが、この自由を手放してはいけないと仰いました。

 地球環境の悪化による現実世界の閉塞感と、SNSという世界共通のプラットフォームを通じて開かれた世界が混在している現代。山極さんは、この現代を”遊動の時代”と言います。この時代に直面した我々には、情報や暮らしなどの”シェア”、それから、医療、教育、交通などの"コモンズ(共有財)"の考え方が重要です。山極さんは、これからの社会では、"共助"をキーワードとして多様な生き方を模索し、実現していくことが求められている、と講義を締めくくりました。


 

講師プロフィール

総合地球環境学研究所 所長

山極 壽一

1952年東京都生まれ。
京都大学理学部卒、同大学院理学研究科博士後期課程単位取得退学。理学博士。
ルワンダ共和国カリソケ研究センター客員研究員、日本モンキーセンター研究員、京都大学霊長類研究所助手、京都大学大学院理学研究科助教授、同教授、同研究科長・理学部長を経て、2020年まで第26代京都大学総長。人類進化論専攻。屋久島で野生ニホンザル、アフリカ各地で野生ゴリラの社会生態学的研究に従事。日本霊長類学会会長、国際霊長類学会会長、日本学術会議会長、総合科学技術・イノベーション会議議員を歴任。現在、総合地球環境学研究所所長、環境省中央環境審議会委員を務める。
著書に『ゴリラからの警告「人間社会、ここがおかしい」』(毎日新聞出版)、『「サル化」する人間社会』(集英社)等。