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  • ダイバーシティ実践論
2017
12/4

アーティストの活動・文化事業から考える6「南米の福祉施設での交流の現場」

講師: BIENALSUR参加アーティスト 五十嵐靖晃・岩田とも子・永岡大輔()
南米諸国の16カ国32都市や地域が連携し、南から発信していこうと志す、第1回現代美術ビエンナーレ「BIENALSUR」。この芸術の祭典に招聘された「TURN」の参加アーティストの五十嵐靖晃さん、岩田とも子さんと永岡大輔さんが、現地の福祉施設の様子とそこで生まれた交流について語られました。
7歳から12歳の約40人の子どもたちが通う、公立の福祉施設「C.E.N.T.E.S No.3」(ブエノスアイレス/アルゼンチン)に赴いた永岡さんは、和菓子作りとともに約3週間の交流を試みましたが、最初は「どのようにしたら交流できるのか」と悩むことから始まったとのこと。その後、施設が行っているダンスや読み聞かせといった通常の活動にも参加する中で、それぞれの行動や表現の意味合いが分かるようになっていったという変化のプロセスが話されました。
また、20代から50代など幅広い世代の人たちが利用する知的障害者支援施設「Caminos Foundation」(ブエノスアイレス/アルゼンチン)で交流を続けた岩田さんは、折形のワークショップを展開しながらやり取りを交わす中で、言葉がわからなくても感じ取ることの面白さや、それぞれのコミュニケーションのあり方や近づき方があるという気づいたとのこと。そうした新たな視点を得たときの出来事などを振り返りながら、現地で行ったことを紹介しました。
そして、「Cerrito Azul」(リマ/ペルー)の障害者支援施設に通う10代の人たちと交流した五十嵐さんは、「まずは観察すること。そして、そこに居ること」を大事にして現地での活動を始めました。様々な気づきや出会いの一つとして紹介されたのが、「卵型」の糸玉に出会った時のこと。これまで他の国や施設でも、糸を通して交流を行う中、円形状のものやダイヤ型の糸玉には遭遇しましたが、「卵型」の糸玉に出会ったのは初めてとのことでした。また、Cerrito Azulの人たちが展覧会場に訪れると、空間の感じが変わったように思ったことについて振り返り、彼らは「人や場所の“らしさ”を引き出すことに長けているのではないか。空間を“起動させる”のではないか」と語りました。

(レポート:畑)

講師プロフィール

BIENALSUR参加アーティスト 五十嵐靖晃・岩田とも子・永岡大輔

五十嵐靖晃(いがらしやすあき)
1978年千葉県生まれ。2005年東京藝術大学大学院修士課程修了。人々との協働を通じて、その土地の暮らしと自然とを美しく接続させ、景色をつくり変えるような表現活動を各地で展開。これまでのプロジェクトで、2005年にヨットで日本からミクロネシアまで約4000㎞、2012年に日本海沿岸をたどる約970㎞の航海を経験。“海からの視座”を活動の根底とする。代表的なプロジェクトとして、樟の杜を舞台に千年続くアートプロジェクトを目指す福岡県太宰府天満宮での「くすかき」(2010〜)、漁師らと共に漁網を空に向かって編み上げ土地の風景をつかまえる「そらあみ」(瀬戸内国際芸術祭2013・2016)、山間に暮らす人々と協働し湖と雲を組紐で結ぶ「雲結い」(北アルプス国際芸術祭2017)など。世界の時間が一点に集まる南極で、子午線を糸に見立てて、世界中から集った人々と組紐を組み、その紐を使って皆で凧揚げをするプロジェクト「時を束ねる」(南極ビエンナーレ2017)を展開。
http://igayasu.com

岩田とも子(いわたともこ)
1983年神奈川県出身。2008年東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修了。身近な自然物の観察・採集から宇宙的なサイクルを体感するような制作をするアーティスト。発表形態は多様で、2012年に畑を舞台に展開した「SILENT MIXER」、2014年に香川県粟島での自然物を採集するプロジェクト「粟島自然観察船」、その他自然学校の講師と共同で森の中で子どもワークショップを定期的に行う。生き物に対する素朴な視点、そこからはじまる学びと表現を大切にしている。
http://shizenkansatsu.net/

永岡大輔(ながおかだいすけ)
1973年山形県生まれ、東京都在住。Wimbledon School of Art修士修了後、国内外にて個展・グループ展による発表多数。
記憶と身体との関係性を見つめ続けながら、創造の瞬間を捉える実験的なドローイングや、鉛筆の描画を早回しした映像作品を制作する。制作の痕跡が意図的に残される作品は作者の記憶ばかりではなく、失われた時間の痕跡としての余韻を空間にもたらす。また、平面や映像作品以外にも、朗読体験を通して人々の記憶をつなげるプロジェクト
『Re-constellation』による公演や、現在では、新しい建築的ドローイングのプロジェクト『球体の家』に取り組むなど、様々な表現活動を展開している。
http://daisukenagaoka.jimdo.com