• 必修科目
  • ダイバーシティ実践論
2018
11/5

アーティストの活動5「はま・なか・あいづ文化連携プロジェクトができたこと/できなかったこと」

講師: 小林 めぐみ(福島県立博物館専門学芸員)
講義では、「はま・なか・あいず文化連携プロジェクトができたこと/できなかったこと」と題し、震災前と震災以後に携わっている文化プロジェクトの紹介をいただきました。博物館がなぜアートプロジェクトをしていくのか。きっかけは、2010年にスタートした、会津の文化資源である「漆」をテーマとした「会津・漆の芸術祭」。博物館がもつ資源を、現代の作家と連携することにより、より能動的に文化を知ってもらう機会をつくるためということ。

翌年2011年3月11日に東日本大震災が起こります。

震災の混乱の中、小林さんは前年に始めた「会津・漆の芸術祭」をベースにし、福島や東北への支援の受け皿にしようとしました。「会津・漆の芸術祭」は2012年から「はま・なか・あいず文化連携プロジェクト」へ繋がり、2018年まで毎年続きます。プロジェクトで行われたことは、大きく2つあり、「コミュニティーの再生」と「消えていくものを残すこと」というに集約されるかと思われます。
「コミュニティーの再生」では、例えばアーティストの日比野克彦さんが震災直後の4月に福島に来られ、東山温泉の避難所で生活されている方へ向けたHEART MARK VIEWINGの取り組みなどがあげられました。ハートマークのアップリケをみんなで作り大きなタペストリーを作るプロジェクト。避難所生活は個々の部屋に閉じこもりがちなるところを、避難所の皆さんを繋げるきっかけになったと振ります。
「消えていくものを残すこと」では、例えばアーティストの岡部昌生さんが取り組まれているフロッタージュの制作を、放射能で立ち入り禁止となった地域で実施し、震災の姿と町の風景をフロッタージュとして残す試みや、写真家が全村避難された方へ、長年住まわれていた家との思い出を聞き、その家の写真を撮影するプロジェクトなどがありました。震災後、家には帰れるようにはなりましたが、誰も住まなくなった時間が長く、老朽化の為、その家は壊され写真だけが現在は残っているとのこと。記録を残し伝えていく大切さを実感したとのことでした。
小林さんはプロジェクトを進める中、震災後極度の二極化が起こり、一方に偏り、互いの選択が認め合えないことが難しい問題だと指摘します。例えば、福島から避難する・しない。福島のものを食べる・食べない。いろいろな人の考え方の多様性を外に出すことが大切であり、その時間をつくる為に多くのトークイベントを企画されていました。

下記プロジェクトを進める中での、トークなどのイベントに参加された方からの声の紹介です。

「福島のことを話すことで自分たちの地域のことを考えはじめた」
これは県外の展示で行った静岡のギャラリーオーナーからの声です。オーナーさんが展示を進める中で静岡の原発のことも考え出したし、福島のことを考えることで自分の土地のことを振り返ることもできたのではないか。福島以外の場所で何かが変わっていくかもしれないと感じたということです。
私たちは当事者にならないと考えられないことが多々あります。当事者考えさせられるように想像をスイッチできるのは、アーティストの作品ではないかと語ります。

講師プロフィール

福島県立博物館専門学芸員

小林 めぐみ

小林 めぐみ(こばやし めぐみ)
福島県立博物館専門学芸員。専門は美術工芸。2010〜2012年、会津の文化資源である「漆」をテーマとした「会津・漆の芸術祭」を企画・運営。東日本大震災、東京電力福島第一原子力発電所事故後は、2012年〜の「はま・なか・あいづ文化連携プロジェクト」など、文化芸術による福島の復興と再生を目的とするいくつかのアートプロジェクトに携わる。