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2018
10/22

アーティストの活動3「介護のからだ」

講師: 細馬 宏通(滋賀県立大学人間文化学部教授)
人間行動学の視点から、介護現場における高齢者の行動の特徴や介護動作の分析を行う滋賀県立大学教授の細馬宏通さんを講師に迎え、「介護するからだ」をテーマに講義を行いました。

講義の導入は以下のような話から。

「例えば知的障害や認知症のある相手と対峙するとき、相手の分かりやすいように伝えてあげなきゃと、無意識に構えてしまう。そうした関わり方って、ある程度の目標は達成できるんです。例えば、童謡を一緒に歌いたいという目標を持って、それが揃って歌えたとする。すると、一定の達成感を得て満足もするでしょう。でもあまり面白くないんですね。一定以上の満足感はあるだろうか、と。本当のところ、私は彼らと何がしたいんだろうかと思う訳です。」

細馬さんは、介護という「現象」をとおして、高齢者がどういう考え方をしているのか。また、それによって自分自身の考え方がどのように変わっていくのか、ということに関心を寄せながら、研究に取り組んでいるといいます。面倒くさいことだけれども、面白いことだと。

福祉の現場ではしばしば「利用者へのケアを創造的に考えること」と言われますが、福祉現場における創造性とは一体何かについても考える機会となりました。

実際の介護の様子を撮影した動画を観ながら、またその映像を何度もコマ送りにしては止めて、また巻き戻して、止めて観る、を繰り返し行い、被介護者である高齢者の方と介護者の一挙手一投足を注意深く観察していきました。するとその瞬間瞬間から、いくつものアテンションとリアクションが隠れていることを知りました。
そして、自分(介護者)の予測した行動と、相手の行動が一致していないときに起こるギャップを、違和感として捉えるのではなく、新たなコミュニケーションの構築のチャンスと捉えることが、
「創造的に考えること」につながるといいます。それは決して難解な振る舞いを強いているのではなく、むしろ私たちも楽しさを感じるほどに気軽なものなのだとも伝えてくださいました。

最後に受講生から、「細馬さんが動画で撮影をする際は、予め撮影対象を何らかの理由によって決めているのですか?」という質問に対し、「心配しなくても、私たちも含めてどんな人との間でも、30分見ていれば、なんらかのディスコミュニケーションが見つかるものです。(笑)」と答えると、教室がどっと笑いに包まれました。

講師プロフィール

滋賀県立大学人間文化学部教授

細馬 宏通

細馬 宏通(ほそま ひろみち)
人と人との共同作業で声と身体がどう関わるかを研究している。著書に『二つの「この世界の片隅に」』(青土社)『介護するからだ』(医学書院)『ミッキーはなぜ口笛を吹くのか』(新潮社)『うたのしくみ』(ぴあ)など。