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2021
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ダイバーシティ実践論11「死をタブー視しないコミュニティデザインプロジェクトを通じて出会う人と暮らし」

講師: 猪狩僚(いわき市保健福祉部 介護保険課 介護認定係長)
今回は、福島県いわき市保健福祉部の介護保険課で働く猪狩僚さんに、①「igoku」というプロジェクト、②「いつだれkitchen」について、③2つの事例から出会った人と暮らし、④「igoku」が考える「福祉」と「アート」、この4点に絞ってお話しいただきました。

猪狩さんは2016年に地域包括ケア推進課に異動し、地域の高齢者の集まりや医療や介護の勉強会に参加することで地域包括ケアへの考えを深めていきました。介護が必要になったり認知症が重くなったとしても、自分の住み慣れた家や地域で最期まで暮らしたいという希望があるならばその希望を支え叶えていこう、というネットワークやシステムが地域包括ケアだと考えています。医師や本人、家族、介護ヘルパーさんだけでなく、地域やご近所さんなど色々な人の力と協力がないとそのような社会は作れないということが、最初の一年間で朧げながらわかったそうです。

「igoku」を生み出すきっかけとなった課題についてもお話しくださいました。人生の最期をどこで過ごしたいかという国の意識調査で約7割が自宅と回答する一方、自宅死亡は1割〜2割だそうです。ここから見えることは、自宅で最期を迎えたくてもそうならなかった方々が多くいたのかもしれない、ということです。「死にたい場所で死ねない」。これを課題とした時に、「たとえ人生の99%が不幸だとしても、最後の1%が幸せならば、その人の人生は幸せなものに変わる」というマザー・テレサの言葉は逆も然りなのではと考えました。

この二つがあわさって、人生の最期というものにもう少しフォーカスを当てた方がいいのではと考えるようになりました。そして翌年、死をタブー視しないコミュニティデザインプロジェクト「igoku」を立ち上げ、2019年にはグッドデザイン賞金賞を受賞しました。「死」について考ることを縁起が悪いことと捉えたり、高齢でも自宅で過ごせるという選択肢があることを知らない人が多くいます。そのような方々に伝えよう、話し合おうということで情報発信と体験型イベントを行っています。

次に、「いつだれkitchen」についてです。コンセプトは、いつでもだれでも食材をシェア、スペースをシェア、悩みごとをシェアです。誰かが持って来てくれた食材をボランティアスタッフが調理し、食事として提供します。食事代は寄付金としての投げ銭方式です。もともとは、ある1人の女性のための居場所を作りたくて生まれたものでした。今では子連れの人も多く、乳幼児を抱っこされたい母たちと抱っこしたい高齢者が出会ったり、介護職員になりたての人の学びの場や、認知症の方々のお出かけ先など、様々な人にとっての交流の場となっています。

これらの活動を通して、猪狩さんは福祉的なコミュニティやたくさんの人々に出会い、課題を解決するのではなく、問いを立てることに軸足をシフトしていきました。最後に、人や社会の見方、見え方、思い込みや常識のようなものを一括りにせず、変えていくことが大事なのだとお話してくださいましたが、これは「アート」にも言えることなのではないでしょうか?

講師プロフィール

いわき市保健福祉部 介護保険課 介護認定係長

猪狩僚

1978年、福島県いわき市生まれ。
大学卒業後、ブラジル留学を経て、
2002年、いわき市役所入庁。
水道局、公園緑地課、財政課、行政経営課を経て
2016年、地域包括ケア推進課
2017年、死をタブー視しないコミュニティデザインプロジェクト「igoku 」を立ち上げる。
2019年グッドデザイン賞金賞受賞。
現在、介護保険課。